日本最後のロックンロール・バンドとしてのチェッカーズ

日本最後のロックンロール・バンドとしてのチェッカーズ

2022年7月9日(土)に配信される「THE CHECKERS FINAL TOUR SPECIAL 【配信限定映像】THE CHECKERS MEMORY」。

配信に先駆けて、試写いただいた音楽評論家・スージー鈴木氏に、武道館ライブに極まるチェッカーズの音楽性の魅力を、特にリズムセクションの視点から、時代背景も踏まえて、語っていただきます。

「チェッカーズ・グルーヴ」の完成形

「あぁ、圧倒的だなぁ」

実に月並みで申し訳ありませんが、「THE CHECKERS FINAL TOUR」の映像をあらためて観て思ったのは、そういうことです。

何が圧倒的かといえば、「全部が」ということになるのですが、特に初めて観る方(が多ければいいなと思います)に注目するべき曲をお知らせすれば、まずは1曲目の『FINAL LAP』。次に9曲目、リラックスしたアコースティック・バージョンの『涙のリクエスト』。そしてクライマックスは19曲目の『90's S.D.R.』でしょうか。

中でも『FINAL LAP』と『90's S.D.R.』は、ぜひバンド全体が一体となって、ぐんぐんと進んでいくグルーヴに注目してほしいと思います。「グルーヴ」というのは「ノリ(乗り)」を意味する抽象的な音楽用語なのですが、とりわけこの2曲、ひいては、このライブの全曲を聴いて、あなたの腰が思わず動いちゃう感じ、まさにそれこそがグルーヴなのです。

つまり、「チェッカーズ・グルーヴ」の完成形としてのライブ――。

音楽評論家的に突き詰めれば、「チェッカーズ・グルーヴ」の本質は、徳永善也(ドラムス)と大土井裕二(ベース)のリズムセクション。当時、それほど活発には語られなかったと記憶しますが、この2人によるリズムセクションは、日本ロック史に残る水準に達していると考えます。 

言うまでもなく、2人のプレイの根源には、まずロックンロールのリズムがあります。ただ、この2人がすごいのは、オールド・ファッションなロックンロールに固執せず、ヒップホップやハウスなど、当時の最新のリズムを柔軟に吸収している点。

せっかくなので、より詳しく書きますと、「♪ツツ・タツ・ツツ・タツ」というロックンロールのエイトビートをベースに、「♪ツクツク・タクツク」という16ビートや「ツック・ツック・タック・ツック」というシャッフルが渾然一体となった、五線譜には決して書き表せない独特なグルーヴ感が、武道館ライブの演奏では完成されています。

このあたり、当の大土井裕二氏も認めていて、拙著『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)で実施したインタビューでも、こう話されています。

――「結局、クロベエの独特のグルーヴがあってのものでした。その人間にしか出せない音というのがあって。同じ演奏は他の人にはできないんですよね」。

つまり、ロックンロールを基本としつつも、実に柔軟で独自だった「チェッカーズ・グルーヴ」あったからこそ、デビューから解散まで常に高値安定という稀有な活躍につながったと、私は考えるのです。

 

80年代のアナログで人間的なグルーヴ

ここで80年代という時代を振り返れば、チェッカーズ以外も含めて、アナログで人間的なグルーヴが、音楽シーンにまだまだ溢れていた時代だったと痛感します。

例えば、チェッカーズのライバル的存在として、しばしば取り扱われたC-C-Bも、見事なリズムセクションを擁したバンドでした。ドラムスの笠浩二もさることながら、特に、スラップを多用した16ビートのベースラインを刻む渡辺英樹のプレイには、目を見張るものがありました。

驚くべきは、80年代後半を代表する人気バンドであるチェッカーズとC-C-B、その抜群のリズムセクションが、演奏しながらボーカル(コーラス)も担当していたこと(ちなみに、今回の武道館ライブの#10『青い目のHigh School Queen』は、徳永善也がリードボーカル)、さらにはテレビの歌番組で、こともなげに生演奏・生歌を聴かせていたことです。

これが90年代になると、ロックバンドのサウンドにおいても「打ち込み」(デジタル入力による自動演奏)が多くなり、その結果、テレビ歌番組では、バンドにもかかわらず、打ち込みサウンドのカラオケに楽器を持って当て振りするという、よく考えたら、とっても奇妙な光景が常態化していきます。

そう考えると、1992年まで第一線で活躍し続けたチェッカーズは、「日本最後のロックンロール・バンド」と言えるのかもしれません。生で演奏し、生で歌い、そして生のグルーヴが聴き手の腰を動かすことをもって「ロックンロール・バンド」と定義するのなら。

だとしたら、その「日本最後のロックンロール・バンドの集大成」が「THE CHECKERS FINAL TOUR」ということになるのです。

 

「ロック」と「ロックンロール」の違いとは?

    ちょっと理屈っぽい音楽的な話が続いたので、最後に、もう少しシンプルで感覚的な話を。

    THE CHECKERS FINAL TOUR」、加えて、今回の「【配信限定映像】THE CHECKERS MEMORY」を観るとおそらく、音楽に詳しくない方でも、「理屈抜きに楽しいなぁ、ワクワクするなぁ」と感じると思います。

    音楽だけでなく、ファッションやダンス、立ち居振る舞い、そして抜群のルックス――聴いて楽しいだけでなく、“観て楽しい”のがチェッカーズのライブです。

    それも含めて「ロックンロール」ではないかと思うのです。「ロック」ではなく「ロックンロール」。「ロックバンド」ではなく「ロックンロール・バンド」。

    拙著『チェッカーズの音楽とその時代』のインタビューで、元メンバー・鶴久政治氏はこう語りました。

    ――「最近のバンドは、ロックンロールのロールがないんですよ。ロールって何かなって思ったら、ちょっとおしゃれな部分のことかなって思うんです。エルビス・プレスリーは楽曲の良さ、パフォーマンス、ファッション、この3つがよかった。今のロックバンドの人たちは、立ったまま演奏している人が多い。パフォーマンスのところがちょっと薄いかなと思うんです」

    まとめると、今回の配信映像は「ロックンロール・バンド」としてのチェッカーズの真価を楽しむべきものです。だから、腰を動かしながら楽しんでいただきたい。できれば、イヤフォンではなくスピーカーから音を出して。それもできるだけ大きな音量で。

    なぜならば、それが「ロックンロール」だからです。

    スージー鈴木

    音楽評論家、小説家、ラジオDJ19661126日、大阪府東大阪市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。音楽評論家として、昭和歌謡から最新ヒット曲までを「プロ・リスナー」的に評論。bayfm9の音粋』月曜日担当DJ。著書に『桑田佳祐論』『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』『1979年の歌謡曲』(いずれも彩流社)、『恋するラジオ』『チェッカーズの音楽とその時代』(いずれもブックマン社)など多数。

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