【80年代女性アイドルの楽しみ方】薬師丸ひろ子/斉藤由貴/中山美穂 浅香唯/本田美奈子(80年代アイドル Vol.5)

【80年代女性アイドルの楽しみ方】薬師丸ひろ子/斉藤由貴/中山美穂 浅香唯/本田美奈子(80年代アイドル Vol.5)

 音楽評論家・スージー鈴木による短期連載「80年代女性アイドルの聴き方」。全5回シリーズで、伝説の女性アイドルたちについて、主に音楽的視点から、その魅力に迫ります。 

>>第1回「松田聖子 編」はこちら
>>第2回「中森明菜 編」はこちら
>>第3回「小泉今日子 編」はこちら
>>第4回「おニャン子クラブ 編」はこちら

 ここまで、松田聖子、中森明菜、小泉今日子、おニャン子クラブという順で、「80年代女性アイドルの聴き方」を語ってきた。今回が最終回なのだが、それでも語りたいアイドルがまだまだいっぱいいる。ということで、今回は「最終回スペシャル」として、そんな語りたいアイドルを一気に総ざらいしたい。

 

まずは、薬師丸ひろ子だ。正直、女優としての活動にウエイトを置いていた感があるので「アイドル」という言葉が似つかわしくない気もするが、それでも、男性ファンの騒ぎ方たるや、明らかにアイドルとしてのそれであった。

演技力はいうまでもなく、歌唱力も抜群という超人的な才能が、その後の女性アイドル界のパラダイムを狂わせたと思う。ファンの多くは「女優も歌手もアイドルも、ぜんぶ薬師丸ひろ子1人でいいじゃないか」と思っていたのではないか。

音楽活動でいえば、大瀧詠一作曲『探偵物語』(83年)と呉田軽穂(松任谷由実)作曲『Woman "Wの悲劇"より』(84年)という、神がかった2曲を与えられたことが、歌手としての最高の幸運だったろう。また神がかった2曲を完璧に歌いこなしたところに、彼女の歌手としての凄みがある。

『探偵物語』対『Woman』は「80年代ソングライター界の頂上決戦」だったと思う。それぞれ大瀧詠一、松任谷由実の最高傑作だとさえ思う。私の採点は、メロディは僅差で『Woman』の勝ち、アレンジは僅差で『探偵物語』の勝ち、しかし真の勝者は、その2曲を歌うという重責を難なくこなした薬師丸ひろ子だ。

 

同じく、薬師丸ひろ子ほどではないにしろ、女優活動のウエイトが大きく見えたアイドルに、斉藤由貴がいる。ただし、歌手活動の存在感を高めたのは、デビュー曲『卒業』(85年)が、作詞:松本隆&作曲:筒美京平という黄金コンビの作品だったこと。その結果、「女性アイドルの王道」的なイメージも与えられたような気がする。

ちなみに『卒業』の発売は、菊池桃子の『卒業-GRADUATION』(作詞:秋元康&作曲:林哲司)の6日前だった。売上枚数は菊池桃子が上回ったが、今となっては、そんな感じがまったくしない、斉藤由貴版の方が数倍浸透したように感じるのは、松本&筒美コンビの底力か。

ボーカリストとしての能力を、薬師丸ひろ子と比べるつもりはないが、それでも透明感のある、息の多い発声は斉藤由貴独自のもので、ありがちな「上手い/下手」論議を超えた宇宙にある。ただ個人的に1曲選ぶとすれば、松本&筒美コンビではなく、玉置浩二が作曲した『悲しみよこんにちは』(86年)だ。

 

同じく、女優活動に寄って見えたアイドルが中山美穂で、こちらもデビュー曲『C』(85年)が松本&筒美コンビ。斉藤由貴よりも不良っぽいキャラクターで、日本テレビ系『セーラー服反逆同盟』(86年)に主演。でも、そんな斉藤も先んじてフジテレビ系『スケバン刑事』(85年)に主演しているのだから、当時のツッパリブーム、恐るべし。

中山美穂も、松本&筒美(&編曲:船山基紀)によるユーロビート路線というよりも、次世代の作家によるシングルを推したくなる。角松敏生の作詞・作曲・編曲による『You're My Only Shinin' Star』(88年)だ。平成は89年からだが、この曲はもう「昭和アイドルソング」というより「平成J-POP」というカテゴリが似つかわしい。

 

では最後に、歌手活動のウエイトが高い、つまり徐々に「アイドル冬の時代」に向かっていく時代背景の中で、負けじと、朗々と歌い続けた2人を紹介して終わりたい。

1人は浅香唯だ。あまり語られない気もするが、この人の声量は抜群だった。また「歌うのが楽しい!」という気分が、ブラウン管越しに伝わってきて、聴いているこちらも、いい気持ちになった。

おすすめ曲。これはもう『セシル』(88年)の一点張り。売上枚数的には、その前の『C-Girl』(同年)が勝るが、『セシル』のエバーグリーン性は、浅香唯の全シングルどころか、80年代後半に作られた日本のポップソングの中でも図抜けていると思う。令和の世にも、誰かカバーしてくれないものか。例えば、木村カエラ版『セシル』なんて、とても聴いてみたいのだが。

 

そして最後は、本田美奈子。デビュー時から、ハリのある声質、声量を活かした歌い方は、音楽への意識の高さをうかがわせた。また、ブライアン・メイやゲイリー・ムーアとのコラボレーションや、ロックバンド「MINAKO with WILD CATS」の結成(88年)など、アイドルという枠に囚われることなく、自らぐんぐんと音楽活動に向かっていった。

1曲選ぶとすれば、90年代になってしまうが、94年の『つばさ』だろう。その中で披露される超絶ロングトーンは忘れることが出来ない。早すぎる死があまりに惜しい。今生きていれば、島津亜矢や夏川りみと張り合ってくれたことだろう。

 

以上、短期連載・計5回通して、80年代女性アイドルを振り返ってみた。動画サイトなどで彼女たちの当時の躍動を簡単に振り返られる便利な時代となったが、そのときは目を凝らすだけではなく、ぜひ耳も傾けてほしい。そう、彼女たちは、アイドルである以前に、歌手だったのだから。

◆ライター

 

スージー鈴木

音楽評論家、小説家、ラジオDJ。1966年11月26日、大阪府東大阪市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。音楽評論家として、昭和歌謡から最新ヒット曲までを「プロ・リスナー」的に評論。bayfm『9の音粋』月曜日担当DJ。著書に『桑田佳祐論』『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』『1979年の歌謡曲』(いずれも彩流社)、『恋するラジオ』『チェッカーズの音楽とその時代』(いずれもブックマン社)など多数。 

         
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