三谷幸喜が贈る予測不能エンターテインメント!大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は多くの武将が話題となりましたが、さらにその武将を支える女性たちにフォーカスをあてて、ご紹介します。
静御前(しずかごぜん) 2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、源平合戦の英雄・源義経(菅田将暉)を虜(とりこ)にした、都随一の白拍子。義経の愛妾(あいしょう)とも伝わる人物。石橋静河が演じた。 |
平安・鎌倉時代の女性、特に身分の低い女性が何を思い、どのような人生を送ったのか、具体的にわかる手だてはあまり残されていません。静御前もその一人です。しかし、断片的に残された資料などを眺めていると、共鳴したくなる点がいくつもあります。
静は白拍子舞を舞うプロの芸能者です。白拍子の語源、起源は様々ありますが、烏帽子・水干を着け短刀を指して、男装で舞を披露しました。時に男性的な、あるいは中性的な、今までにない魅力を放ったようです。美しい舞の次には、歌いながら足で拍子をとって踏み回し、緩急楽しませてくれます。若さを誇る芸だったのかもしれません。
白拍子は女系を基本とした社会で、血のつながった母娘でなくとも、擬制的な母娘関係が築かれたようです。『平家物語』に登場する白拍子の祇王も、妹と母と暮らしています。静御前も、母と二人で鎌倉に行きます。確かに、どちらも父の影は見えませんね。
高貴な家に招かれることも多かったので、貴族の子供を産む白拍子もいました。子供が跡取りになったこともあります。「母、白拍子〇〇」と書かれた系図をしばしば見かけます。幸福な結婚・出産をして引退する白拍子も、男性に頼らず、現役を続ける女性もいたでしょう。現役を引退したら、後進の指導やプロモートの側に回ったりしたでしょう。現代も同じですね。
さて、風雲児源義経に愛された静は、都で評判の白拍子でした。義経が都を去る時には行動を共にしました。激情的、行動的ですね。
吉野で捕まった後、鎌倉に連行されます。ある時、鶴岡八幡宮に召しだされ、芸を披露するように命じられました。仕方なく舞を披露し、次に自分の思いを、
吉野山峰の白雪踏み分けて入りにし人のあとぞこひしき
しづやしづ賤の苧環繰り返し昔を今になすよしもがな
とうたい、見事な歌声は皆を感動させました。
憚ることなく、義経への揺るぎない思いを公言する歌を選びました。女だから殺されることはなかったでしょう。だからと言って、頼朝の気持を損ねる歌を選ぶとは。
芸能者は主催者や客人の気持ちをなごませるのが一番重要ですが、この時は、頼朝を畏れ、おもねる気持など、全く見受けられません。自分の思いを口にすることが最重要課題でした。舞台上のことで罰せられるなら、それこそ本望……と思ったかどうかはわかりませんが、そうした気迫を感じます。
〝義経の愛妾〟とは違う、もう一つの自分の立場を思い出したのではないでしょうか。自分には失うものは何もない。腕一本で生きていける。静の強さを支えたのは、芸能の徒として生きる誇りではなかったでしょうか。
ドラマでは、石橋静河さんが、わざと拙く舞っていたのが一瞬にして切り替わったシーンは印象的でしたね。
その後、男児を出産し、嬰児はすぐに殺されました。痛ましい結末です。そして母と共に都に帰りました。歴史の表舞台に立ったのは、たまたま愛した男性が義経であったからです。静自身は、自分が白拍子という芸能の徒であることをバネに、人生を全うしたと、想像しています。
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櫻井陽子(さくらい・ようこ)
静岡県生まれ。お茶の水女子大学大学院博士課程人間文化研究科比較文化学専攻満期退学。博士(人文科学)。現在、駒澤大学文学部教授。『平家物語』などの軍記物語を中心とした中世日本文学の研究を専門としている。著書に『『平家物語』本文考』、『平家物語の形成と受容』、『90分でわかる平家物語』、『平家物語大事典』(共編)、他にCD集「聞いて味わう『平家物語』の世界」などがある。NHKでは、ラジオ〈古典講読〉「平家物語、その魅力的な人物に迫る」に出演。
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◆NHK大河60
https://www.nhk.or.jp/archives/bangumi/special/taiga/detail/d_061.html
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