松本潤主演で大注目の大河ドラマ「どうする家康」。家康、秀吉に先駆け、戦国の世を激しい武力で切りひらいていった織田信長とは、実際はどのような人物だったのか――。ドラマの背景にある実像に迫る。
織田信長(おだ・のぶなが)/ 岡田准一 2023年NHK大河ドラマ「どうする家康」で、家康(松本潤)がもっとも恐れる戦国武将。桶狭間では、常識にとらわれない発想で今川軍を打ち破り、その革新的な戦術により戦国のカリスマとなる。家康は、信長の背中を追いかけるなかで武将として成長していく。 |
「鳴かぬなら殺してしまえ」
信長の強権とカリスマは真実か⁉
徳川家康の生涯を描く大河ドラマ「どうする家康」。その家康と、彼に先駆けて天下人となった織田信長と豊臣秀吉との生涯は密接に絡み合っていました。最初に登場する信長は「鳴かぬなら殺してしまえ」というホトトギスの川柳でも知られるように、戦国の世を激しい武力で切りひらいたイメージがありますが、実際はどんな人物だったのでしょうか。
尾張から天下へ
信長は1534年に、尾張で生まれます。幼少時に織田家の人質になったこともある家康は、8歳年上の信長とも会ったことがあるはずです。2人はその後、1560年の桶狭間の戦いでは敵対したものの、まもなく同盟を結ぶと親戚関係になってタッグを結び、家康は三河から遠江へ、信長は尾張から美濃・近江へと領国を広げていくのです。
信長は1568年、足利義昭とともに京都に入ります。義昭を室町幕府の将軍に据えた信長は、畿内の各地で敵対勢力との戦いに明け暮れますが、義昭との親密さは長続きせずに京都から追放してしまいます。それまで室町幕府の存在感が大きかった畿内は、日本の中心として天下と呼ばれていましたが、将軍不在の天下は信長の手に握られていったのです。
天下人の安土城
天下人となった信長は琵琶湖の近くに安土城を築きます。城の周囲には信長の家臣たちが集住し、朝廷や諸大名の使節、キリスト教の宣教師など、大きな権限を持った信長に対面しようとする人々が押し寄せました。
なによりも安土城でインパクトがあるのは、大がかりな石垣の上にそびえ立つ五層の天守です。その外観が遠くからも目を引くだけでなく、内部は金箔などできらびやかに修飾されていました。残念ながら安土城の天守は失われてしまいましたが、後に続く秀吉も家康も同じような巨大城郭を築いて模倣しているように、天下人が手にした武力と権威を象徴する建物だったのです。
人間五十年
安土城を拠点に周囲との戦いを推し進めた信長に、突然の悲劇が襲います。1582年に東の武田勝頼を滅ぼし、返す刀で西の毛利輝元との戦いに出陣する直前、家臣の明智光秀から反旗を翻されるのです。謡曲「敦盛」を好んだという信長は、しかしその一節にある「人間五十年」を全うすることなく、数え年の49歳で本能寺に自刃したのでした。
信長の生涯は、戦いの連続でした。手にした武力を巨大な城郭で誇り、戦いによって解決を図ろうとする点で、「殺してしまえ」という川柳は信長の一面を捉えているといえます。ただ最近の研究では、武力で押し切るだけではなくしばしば防戦に回っていたことや、じつは保守的な面も持ち合わせていたことが分かっています。
大河ドラマ「どうする家康」で岡田准一さんの演じる信長は、常人離れしたカリスマとして描かれます。複雑な思考回路を巡らせながら、その内側にある人間としての奥行きにも目を向けてみると、さらに信長というキャラクターを楽しめるのではないでしょうか。
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黒嶋敏(くろしま・さとる)
東京都生まれ。青山学院大学大学院文学研究科史学専攻中退。
博士(歴史学)。現在、東京大学史料編纂所准教授。中世日本の地域や海の世界から見た政治史を研究している。著書に、『中世の権力と列島』『海の武士団 水軍と海賊のあいだ』『天下統一 秀吉から家康へ』『秀吉の武威、信長の武威 天下人はいかに服属を迫るのか』などがある。
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