27歳の頃の小川盛弘先生(ボストン美術館にて) Photo by Ted Dully/写真提供ユニフォトプレス
2024年1月21日(日)に、NHKカルチャー文化センター・青山教室で『名刀甲冑武具大鑑』(NHK出版)発刊記念特別講座が開催されます。講座の開催に先駆け、同書の著者で講師の小川盛弘先生(メトロポリタン美術館名誉特別顧問・ボストン美術館名誉部長)に、サムライアートに魅了されたきっかけ、刀剣の鑑賞ポイントなどをお聞きしました。
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天下の名刀、鎧・兜の名品、多彩な戦具の名作など316件を迫真の600余点のビジュアルで紹介する『名刀甲冑武具大鑑』。国宝138件を含む「サムライアート」の美と迫力をまとめて体感する美術書です(図版編と解説編の2分冊)。
Q:小川先生が侍に魅了されたのはどういうことがきっかけですか?
刀ですね。私が8歳の時に父が逝去しまして、刀を主体とした古美術のコレクションと膨大な量の書物が遺品として残されました。その後、年に2~3回は父の友人の美術商が刀の手入れとか掛け軸の虫干しに来てくれたのですが、私はその様子をずいぶんきれいなものがあるんだなと思って見ていました。12~3歳頃、その友人のひとりが有名な先生を紹介してくださったんです。その方が私の日本刀の師匠となる佐藤寒山先生。当時、東京国立博物館の工芸課長に就かれていました。
Q:侍が身につける甲冑、武具、刀剣などは、なぜこういう姿になったと思われますか?
盾と矛の話はご存じだと思いますがね、武器・武具というのはその国の文化の民度の高さを知らせるバロメーターになるものなんです。奈良時代までの武器は中国から流れてきた文化の延長戦上にあるものでした。平安時代になって日本文化というものが醸し出され、武器もいろいろなものを取り入れて日本流に解釈されたんです。日本刀の反りというものは独特のものなんですよ。反りがあるとすごく斬りやすいんです。平安時代から鎌倉時代までのものというのは元で反っているから、斬るにもよし、馬上から刺すにもいい。
Q:良い刀を見分ける方法はありますか?
名品をしかるべき人から見せていただくというのが一番だと思います。私が13歳の頃、師匠の佐藤寒山先生が最初に見せてくださったのは岡田切という国宝の名刀でした(『名刀甲冑武具大鑑』図版No.165)。ある日、「この刀とにらめっこをしていろ」と言われ、手にした私はじっと向き合っていたのですが、20分ほどすると冷汗が出てきたのです。刀の持っている力に押されて手がブルブル震え始めたんです。それを見ていた師匠がニヤッと笑って、「それが名刀というものだからよく覚えておけ」とおっしゃった。とにかく理由や説明は一切いらないんですよ。その後も師匠は会うたびに天下の名品ばかり見せてくれました。
Q:日本刀の見方、観賞ポイントを教えてください。
まずおすすめするのは刀の体配、姿、スタイルを見ること。例えば、三条宗近(『名刀甲冑武具大鑑』図版No.94)の体配はエレガントですね。地金の綾杉肌も素晴らしい。私の観点でいえば、すべての美術品はとにかく品があって美しくなきゃダメなんですよ。
▼岡田切
▼三条宗近
Q:武具は実戦に用いるものと、信仰上のものの双方があるのでしょうか?
根本的に武器・武具ですから、第一義は実戦で使えるものです。それにプラスして、信仰上の対象としても扱います。春日大社に所蔵される二領の国宝の赤糸威鎧(『名刀甲冑武具大鑑』図版No.16と18)はあんなに華やかですが、ちゃんと敵からの攻撃をうまくかわすことができるように安全を考えて作られています。いかに華やかに作ったとしても体を守ってくれなければ仕方がないですから。奉納されたものでも当然使われています。現代では当時のような武具は作れないでしょう。格好は出来たとしても、心はできないですから。
▼赤糸威鎧 兜・大袖付(梅鶯飾)
▼赤糸威鎧 兜・大袖付(竹虎雀飾)
Q:ユニークな兜を教えてください。
上杉謙信が使用したと伝わる三面の兜「三宝荒神形兜」(『名刀甲冑武具大鑑』図版No.59)ですね。桃山時代の「火焔不動前立付頭巾形金箔押兜」(『名刀甲冑武具大鑑』図版No.60)もいいですね。兜についたモチーフでは蝶々はチャーミング。うさぎがついているのもかわいらしい。蟷螂がついた「蟷螂前立付烏帽子形兜」(『名刀甲冑武具大鑑』図版No.45)も魅力的ですね。これだけのバリエーションがあってセンスオブヒューマンにあふれたものは、日本以外にはないです。鎌倉時代のものは数が少ないですが、品格は素晴らしいです。
▼三宝荒神形兜
▼火焔不動前立付頭巾形金箔押兜
▼蟷螂前立付烏帽子形兜
Q:サムライアートを実際に鑑賞する際の注意点は
刀を手にしたら、無駄な話はしないということです。つばきが飛びますのでね。ちなみに「サムライアート」という言葉は私が作ったんですよ。
Q:『名刀甲冑武具大艦』をまとめあげられた感想をお願いします。
私がいうのもおこがましいですが、よくぞやったと思います。これは天命ですね。大鑑をまとめたこによって、もう一つのアイデアが私の頭の中をぐるぐる回っているんですよ。それまで、寿命が持つかどうか。どうにか形にできたらなと思います。
■知られざるサムライアートの世界へ 名刀名品の見どころがわかります!
サムライアートと呼ばれる日本刀や甲冑の美しさ・奥深さは、時代や国境を超え、傑出した存在感を誇っています。本講座は、国宝刀剣122口の内の大多数109口をたっぷりと掲載し、国宝の甲冑全19領を網羅した美術書『名刀甲冑武具大鑑』をベースに、大型8Kモニターで迫力のある画像を惜しみなく紹介しながら、名刀名品のとっておきの見どころを小川先生の名解説で堪能していただきます。なお当日は、安土桃山時代の名品(実物)を会場で披露します。所蔵者から特別な許可を得て会場入りする○○○。ぜひお楽しみに。
開催日時:2024年1月21日(日)10:30~12:00予定
オンライン受講:2024年1月21日(日)10:30~12:00予定
開催場所:NHKカルチャー青山教室(東京都港区南青山1-1-1新青山ビル西館4F)
受講料:①教室受講【会員】3,432円(税込)・【一般(入会不要)】3,750円(税込)
②オンライン受講:3,300円(税込
*配信は終了しました。
■講師プロフィール
小川盛弘先生(おがわ・もりひろ)
1946年生まれ。國學院大學卒。10代の頃から佐藤寒山(刀剣研究の泰斗)に師事し、師の勧めにより渡米。ボストン美術館刀剣・金工室長などを経て、現在はメトロポリタン美術館名誉特別顧問ならびにボストン美術館名誉部長。2020年、文化庁長官表彰。主な著書・監修書に『ボストン美術館蔵日本刀・刀装・刀装具集』(大塚巧藝社、1984年)、『Art of the Samurai: Japanese Arms and Armor, 1156-1868』(The Metropolitan Museum of Art、2009年)、『名刀甲冑武具大鑑』(NHK出版、2023年)など。