三谷幸喜が贈る予測不能エンターテインメント！大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は多くの武将が話題となりましたが、さらにその武将を支える女性たちにフォーカスをあてて、ご紹介します。
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大姫（おおひめ） |
頼朝の娘なのに、いえ、だからこそ、薄幸の人生を送った大姫。『吾妻鏡』などから、生きた日々を追ってみましょう。
大姫はおおよそ治承2年（1178年）ぐらいの誕生かと推測されています。弟妹とは違って、確かなことはわかっていません。幼名も伝わっていません。因みに、頼家は万寿、妹は三幡、実朝は千幡です。乳母・乳母夫も不明です。頼朝が表舞台に躍り出る前の誕生であったためでしょうか。
大姫が人々の記憶に刻まれたのは、まず、元暦元年（1184年）4月に起きた事件です。ご存じのように、頼朝と従兄弟の義仲が衝突寸前の緊迫した状況に陥りました。それを回避するために、義仲の長男義高は鎌倉に送られ、頼朝の聟となりました。義仲への配慮がうかがえます。大姫は10歳にも満たず、義高も11歳かという幼い夫婦です。しかし、やがて事情は変わり、頼朝が義仲追討のために、大軍を京に派遣します。身に危険を感じた義高は鎌倉を抜け出しますが、木曽に向かう途中で殺されます。
誰が教えなくとも、大姫は夫に危険が迫ったこと、夫が殺されたこと、そしてその原因が父親同士の関係にあり、しかも、父が夫を殺させたことは十分に察するでしょう。大人に振り回され、どれほど心に傷を負ったことか。
ちなみに、父義仲は美男子だったと言われますが、同時に野性的な言動が語られます。義高も木曽で生まれ育ちました。父同様の武人としての片鱗はあったでしょう。大姫にとって、大切な夫でした。
その2年後、鎌倉に召喚されていた静御前の舞を鑑賞します。一流の芸を間近で堪能できるめったにない機会です。その美しい舞に浸れば、大姫の気持ちも晴れるかと期待されたのかもしれません。しかし、静自身も愛する義経と別れて鎌倉に連行され、尋問を受ける身です。大姫は自分の状況にたやすく重ね合わせたでしょう。あるいは、気丈に振る舞う静御前に会って、気持ちを立て直すきっかけをつかめたのでしょうか。
その後、頼朝は、大姫を後鳥羽の后妃にと画策しますがうまくいかず、大姫は何度となく病に臥せります。もともと病弱だったのでしょう。建久5年（1194年）には、一条能保の息子、高能との結婚話を大姫が断り、その翌月、政子は義高の追善供養を行います。義高の霊を弔って大姫の不幸の原因を取り除こうという母の切実な思いが伝わります。
翌年には両親と共に上洛します。大姫は清水寺などに参詣を繰り返します。名所見物ではありますが、体調の回復を祈ってのことでしょう。そのおかげか、一旦は回復の萌しも見えたようですが、建久8年7月14日に亡くなりました。20歳になるかならずかの儚い一生でした。
再婚・再々婚と重ねることが一般的な時代です。頼朝の娘であれば、夫の候補は多くいたはずです。『吾妻鏡』が繰り返すように、義高への思いが身心を蝕んだのでしょうか。
『吾妻鏡』を離れれば、生きることに貪欲になれなかったのか、求められた女の生き方に体が拒絶反応を示したのか、などと考えてしまいます。あるいは、思うにまかせぬ体と心に大姫自身が苛立ち、責めたて、悪循環を繰り返したのか──。生来の虚弱体質にとって、京都の長期滞在も体力的には酷だったでしょう。
翌年末には父頼朝が倒れ、明けての正月に亡くなります。六月には妹も。続く身内の不幸を見ないですんだのがせめてもの救いでしょう。
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櫻井陽子（さくらい・ようこ）
静岡県生まれ。お茶の水女子大学大学院博士課程人間文化研究科比較文化学専攻満期退学。博士（人文科学）。現在、駒澤大学文学部教授。『平家物語』などの軍記物語を中心とした中世日本文学の研究を専門としている。著書に『『平家物語』本文考』、『平家物語の形成と受容』、『９０分でわかる平家物語』、『平家物語大事典』（共編）、他にCD集「聞いて味わう『平家物語』の世界」などがある。NHKでは、ラジオ〈古典講読〉「平家物語、その魅力的な人物に迫る」に出演。
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◆NHK大河60
https://www.nhk.or.jp/archives/bangumi/special/taiga/detail/d_061.html
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