三谷幸喜が贈る予測不能エンターテインメント！大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は多くの武将が話題となりましたが、さらにその武将を支える女性たちにフォーカスをあてて、ご紹介します。
| 巴御前（ともえごぜん） 2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に登場した、信濃源氏の武将・木曽義仲（青木崇高）の愛妾（あいしょう）。武勇に優れ、敬愛する義仲とともに戦場を駆け抜ける強く気高き女武者。秋元才加が演じた。 |
巴御前が和田義盛の妻になって、鎌倉で仲睦まじく暮らしている──驚いた方は多いのではないでしょうか。巴は『平家物語』にだけ登場します。おそらく実在した人物ではないでしょう。だから自由に脚色できるのでしょうが、完全なオリジナルな設定とも言い切れません。
『平家物語』には様々な種類があり、義仲のもとで戦った巴の「その後」も様々に描かれます。例えば、
最後の五騎になるまで戦ったが、義仲から、女だから逃げろと言われ、渋々従う。最後に武蔵の武士の首を切り、東国へ去った。
と記す本があります。これは一番有名です。巴の戦いのすさまじさには、これこそ巴！ と息を呑みます。そのほかに、
逢坂関から姿を消し、越後国で尼になった。
とか、
奮戦し、義仲に褒められた後、いつのまにか姿を消した。
という本もあります。
『平家物語』を読んでいると、時々、合戦の場からそっと去る人がいることに気づきます。敵前逃亡ではなく、主人から命令されて戦場を離れるのです。それは主人に付き従う下仕えの者です。非戦闘員ですから、戦うことはありません。主人と血縁もなく武士でもなく、だから戦場で命を落とす必要はないと言われ、泣く泣く別れます。その後、遺族に主人の死と最期のありさまを報告し、役目を終えます。
また、通常、女性は戦場には行きません。家で男たちの凱旋を待ちます。悲報が届くこともあります。その時には、亡くなった人々の菩提を祈って後半生を過ごします。
巴は「便女（身の回りの世話をする女性）」と書かれています。戦場でぎりぎりまで付き従う下仕えに相当します。そこに、女武者という類まれなる役柄が加わります。また、女性であることから、菩提を祈る女性としての役目も加わって、『平家物語』の巴が作られたのではないかと思います。
最後の戦いの直接体験者である巴の報告には重みがあります。義仲の菩提を祈り、義仲の人生を語り続けるためにも、巴は生き続けなくてはなりませんでした。
ただ一つ、『源平盛衰記』という、『平家物語』の一種に、全く違う巴のその後が描かれています。
奮戦後、女だから逃げよ、故郷の妻子に最期を語るように、と言われ、渋々従う。戦乱終結後、鎌倉に召喚される。和田義盛が巴の強力（ごうりき）を見込んで妻とし、剛勇の武士、朝比奈三郎義秀を生んだ。後に越中国で出家して人々の菩提を祈り、九十一歳まで生きた。
おわかりですね。これがドラマに活かされたのです。
朝比奈義秀は、和田合戦で大活躍した伝説的な力持ちです。和田義盛自身も大変な強力だったようです。義盛を上回る強力の息子、朝比奈の強さを納得させるために、強い母が求められたのでしょうか。
この時代の女性は、大切な男性を亡くした後には、出家して尼になることもありますが、実は再婚することが多かったようです。『源平盛衰記』も、巴を生かしたかったのですね。しかも、力持ちという特技を活かして。
ドラマではそれが十全に叶えられました。巴（秋元才加）が和田義盛（横田栄司）と穏やかな日々を過ごすことができて、義仲(青木崇高)も安堵していることでしょう。
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櫻井陽子（さくらい・ようこ）
静岡県生まれ。お茶の水女子大学大学院博士課程人間文化研究科比較文化学専攻満期退学。博士（人文科学）。現在、駒澤大学文学部教授。『平家物語』などの軍記物語を中心とした中世日本文学の研究を専門としている。著書に『『平家物語』本文考』、『平家物語の形成と受容』、『９０分でわかる平家物語』、『平家物語大事典』（共編）、他にCD集「聞いて味わう『平家物語』の世界」などがある。NHKでは、ラジオ〈古典講読〉「平家物語、その魅力的な人物に迫る」に出演。
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◆NHK大河60
https://www.nhk.or.jp/archives/bangumi/special/taiga/detail/d_061.html
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