「ひまわり」ら静物画からひも解くゴッホ展「ゴッホと静物画 伝統から革新へ」

「ひまわり」ら静物画からひも解くゴッホ展「ゴッホと静物画 伝統から革新へ」

東京・新宿のSOMPO美術館で20年ぶりのゴッホ展「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」が開幕しました。国内外25か所から集まったフィンセント・ファン・ゴッホの作品は「ひまわり」「アイリス」など25点。加えてモネやゴーギャン、ルノワールなど巨匠たちの静物画も合わせて69点を展示します。

ヨーロッパの静物画の歴史を軸にゴッホがどんな作品に影響を受け、その後どんな次世代の画家たちに影響を与えたのかを探る本展。押さえておきたいゴッホや有名画家の静物画、会場で販売されているゴッホ関連グッズやイベント情報もご紹介します。

目次

  • 37歳で生涯を閉じた不遇の天才画家・ゴッホ
  • 「ひまわり」につながっていくゴッホが描いた静物画
  • モネ、ドラクロワ、ルノワール、ゴーギャン…ゴッホと同時代に生きた有名画家たちの静物画
  • 鑑賞後に立ち寄りたいミュージアムショップ&カフェ
  • 「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」概要
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    37歳で生涯を閉じた不遇の天才画家・ゴッホ

    1853年にオランダ南部で誕生したフィンセント・ファン・ゴッホ。生涯数点しか作品が売れなかったため、“生前は評価されなかった不遇の画家”として知られています。16歳から美術商として働くも23歳で解雇され、父のような牧師を志すも失敗。27歳頃から農民の働く姿を描くようになり、弟テオの勧めで画家になることを決意しました。

    ドイツで絵を学び、故郷オランダで農民や農民の生活を描いたゴッホは33歳でフランス・パリへ。35歳頃に運命的に出会ったポール・ゴーギャンと南仏アルルで共同生活を始めます。しかし、ゴーギャンと意見が対立、ゴッホが自らの耳を傷つけるなどして9週間で破綻。その後は精神病院で療養しながら制作。37歳で静かな農村オーヴェールに転居してほどなく、麦畑で自らを銃で撃ち短い生涯を終えました。10年あまりの濃密な画家人生で残したインパクトは後世に語り継がれています。

    ひまわり [フィンセント・ファン・ゴッホ 1888年11月~12月]


    フィンセント・ファン・ゴッホ 《ひまわり》 1888年 油彩/キャンヴァス SOMPO美術館

    ゴッホの有名な代表作のひとつ「ひまわり」。35歳のゴッホはアルルに到着した8月に「ひまわり」の連作に着手しました。ゴーギャンと暮らした共同アトリエ「黄色い家」を6点または12点のシリーズにしたひまわりの絵だけの装飾で彩ろうと考えていたと手紙に記しています。黄色い背景、黄色い壺にいけた黄色いひまわりは、ゴーギャンとの対立があった前後の11月下旬~12月上旬に描かれたと考えられています。

    アイリス [フィンセント・ファン・ゴッホ 1890年5月]


    フィンセント・ファン・ゴッホ 《アイリス》 1890年 油彩/キャンヴァス
    ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
    Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation)

    ゴッホが亡くなる数か月前に描かれたのが「アイリス」。カーマインとプルシアンブルーを合わせた紫の花束を鮮やかなレモン・イエローの背景に描き、対極にある色を互いに高め合う効果を狙ったとゴッホは語っています。


    「ひまわり」につながっていくゴッホが描いた静物画

    ゴッホが生涯で描いた850点あまりの油彩画の中で、静物画は約190点にのぼります。絵画技法上達のために果物や野菜といった食べ物、靴や花瓶などの日用品などさまざまな静物画を多数描きました。後の傑作である花の静物画「ひまわり」につながっていく名品の数々を年代順にご紹介します。

    ヴィーナスのトルソ[フィンセント・ファン・ゴッホ 1886年6月]

    フィンセント・ファン・ゴッホ 《ヴィーナスのトルソ》 1886年 油彩/厚紙
    ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
    Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation)

    ゴッホが33歳の頃に描いた女性トルソの石膏像をモチーフした油彩の作品です。弟テオが住むアパルトマンで同居しながら制作をしていた時期。石膏像のデッサンにも力を入れており、背景を青にしたトルソや馬などを数多く厚紙に描いています。

    靴 [フィンセント・ファン・ゴッホ 1886年9月~11月]


    フィンセント・ファン・ゴッホ 《靴》 1886年 油彩/キャンヴァス
    ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
    Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation)

    「ヴィーナスのトルソ」と同じくパリ滞在中に描かれた作品。ゴッホは靴のみを描いた静物画は少なくとも7点制作。そのうち6店が紐を結ぶタイプで履き古された靴をモチーフにしています。

    三冊の小説 [フィンセント・ファン・ゴッホ 1887年1月~2月]

    フィンセント・ファン・ゴッホ 《三冊の小説》 1887年 油彩/板
    ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
    Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation)

    キャンヴァスではなく板に描かれた作品。三冊のタイトルはいずれも市井の人々の現実を描いた自然主義文学と判明しています。作品の裏面の板には日本製品の輸出販売会社の名前が漢字で記され、当時パリにいた34歳のゴッホの日本への興味関心がうかがえます。

    髑髏 [フィンセント・ファン・ゴッホ 1887年5月]


    フィンセント・ファン・ゴッホ 《髑髏》 1887年 油彩/キャンヴァス
    ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
    Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation)

    ゴッホがパリにいた34歳の頃、死の象徴とされている髑髏や骸骨を描いた作品。人生のはかなさや死を連想させる骸骨や火の消えたロウソクなどをモチーフに描く静物画のジャンル「ヴァニタス」。17世紀には「メメント・モリ(死を忘れるな)」という戒めを込めて数多く描かれました。

    皿とタマネギのある静物 [フィンセント・ファン・ゴッホ 1889年1月上旬]


    フィンセント・ファン・ゴッホ 《皿とタマネギのある静物》 1889年 油彩/キャンヴァス
    クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー
    © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands

    1888年12月にゴッホとゴーギャンは激しい対立、耳切り事件などが原因で共同生活に終止符を打ちます。ゴーギャンはアルルを離れ、ゴッホは精神病院に入院。数週間後、退院したゴッホが描いたとされるこの作品には、タマネギ、ロウソクと燭台、本やパイプなどゴーギャンと暮らしていた頃に描いた絵に登場したモチーフが並んでいます。


    モネ、ドラクロワ、ルノワール、ゴーギャン…ゴッホと同時代に生きた有名画家たちの静物画

    ゴッホと同時代を生きた有名画家たちの静物画も多数展示されています。ゴッホが影響を受けた画家、意識していた画家たちを静物画を通して紐解きます。同じように見える静物画でもタッチや色彩、緻密さなどが時代によって変化、発展していくさまを見比べてみましょう。

    グラジオラス [クロード・モネ 1881年]


    クロード・モネ 《グラジオラス》 1881年 油彩/キャンヴァス
    ポーラ美術館

    印象派を代表する画家の巨匠・モネの作品。風景画家であるため、静物画は決して多くはなく貴重な展示となります。掛け軸をイメージさせるような縦長で壺に花を一輪だけ差した構図からモネの日本美術への関心の深さがうかがわれます。また上野の森美術館では、モネの展覧会「モネ 連作の情景」を2024年1月28日(日)まで開催中。国内外40館以上から集められた展示作品すべてがモネという点が見どころです。

    花瓶の花 [ウジェーヌ・ドラクロワ 1883年]

    ウジェーヌ・ドラクロワ 《花瓶の花》 1883年 油彩/キャンヴァス
    スコットランド・ナショナル・ギャラリー
    National Galleries of Scotland.

    ロマン主義を代表する画家・ドラクロワの作品。ゴッホはオランダにいた頃から、ドラクロワの色彩の表現力に感銘を受けていたことが手紙からわかっています。ゴッホの色彩豊かな絵画の中にドラクロワから受けた影響がうかがえます。

    アネモネ [ピエール=オーギュスト・ルノワール 1883年~1890年頃]

    ピエール=オーギュスト・ルノワール 《アネモネ》 1883年~1890年頃 油彩/キャンヴァス
    ポーラ美術館

    ゴッホはルノワールやモネ、アルフレッド・シスレー、エドガー・ドガなどの印象派の巨匠たちを「グラン・ブールヴァールの画家(大通りの画家)」。一方、自身やエミール・ベルナール、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックなどフェルナン・コルモンの画塾で学んだ仲間たちを「プティ・ブールヴァールの画家(小さい通りの画家)」と呼び、同じパリに住むルノワールらを意識していたことがわかります。

    花束 [ポール・ゴーギャン 1897年]


    ポール・ゴーギャン 《花束》 1897年 油彩/キャンヴァス
    マルモッタン・モネ美術館、パリ
    Musée Marmottan Monet,Paris

    ゴッホが亡くなってから7年後にゴーギャンが描いた作品。1897年に最愛の娘を亡くし、自身も病や金銭面で悩まされ、12月には自殺未遂を起こしたゴーギャン。この作品は病が小康状態の時に鮮やかな花々がいけられた木製の鉢と果物を描いたとされています。


    鑑賞後に立ち寄りたいミュージアムショップ&カフェ

    美術館内にあるミュージアムショップには、「ひまわり」や「アイリス」などのほか、ゴッホ作品にちなんだ素敵なグッズがたくさん並んでいます。

    ミッフィーとゴッホ関連美術館のコラボグッズ



    ひときわ目を引くのはオランダ生まれのミッフィーとゴッホのコラボグッズ。青い洋服に身を包んだ「ゴッホ美術館コラボ」ぬいぐるみは税込4,180円、ブルーのトートにミッフィーの顔がデザインされた「ミッフィーバッグ」は税込4,290円。どちらもさわやかなゴッホブルーが印象的。

    ピンク色の洋服を着た「クレラーミュラー美術館コラボ」ぬいぐるみは税込3,850円。かわいらしさとデザイン性の高さを兼ね備えた大人も欲しくなるアイテムです。同美術館はオランダにある世界で2番目の規模を誇るヴァン・ゴッホ・コレクション所蔵で知られています。

    エコバッグ、ピルケース、マグネット…普段使いしやすいグッズも充実

    「ひまわり」「アイリス」などゴッホの代表作、ゴッホ自身をモチーフにしたセンスあふれるグッズがたくさん。

    エコバッグやピルケース、マグネット、ペンやふせんなど普段使いしやすいアイテムを鑑賞の記念にどうぞ。



    本展の静物画を網羅した「ゴッホと静物画展 図録」



    本展の作品解説のほか、静物画の歴史やゴッホの略年譜、有名画家の生没年表やゴッホが滞在した土地を載せた地図なども掲載されています。税込2,500円。

    鑑賞後には広々ミュージアムカフェ「Café Du Musée」でほっと一息

    ショップの隣には、コーヒーや紅茶などのソフトドリンクが楽しめるカフェがあります。印象に残った作品の感想を話しながら、ゆっくり過ごせますよ。なおミュージアムショップやカフェは観覧券をお持ちでない方も自由に入ることができます。

    ※カフェは展覧会開催日の土日祝日のみの営業

    「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」概要

    ■会場:SOMPO美術館
    会期:2023年10月17日(火)~2024年1月21日(日)
    鑑賞料:一般 2,000円(1,800円) / 大学生 1,300円(1,100円)
    ※()内は日時指定料金
    ■開館時間:10:00~18:00(ただし11月17日(金)と12月8日(金)は20時まで)
    ※最終入場は閉館30分前まで
    ■休館日:月曜日(ただし1月8日は開館)年末年始(12月28日~1月3日)

    ★混雑緩和のため、9月29日(金)より日時指定予約を導入★

    観覧料
    ■一般
    日時指定券/期限付観覧券:1,800円
    当日券:2,000円

    大学生
    日時指定券/期限付観覧券:1,100円
    当日券:1,300円

    ※展覧会は終了しました。


    ◆レポート/ライター

    高田りぶれ(たかだ・りぶれ)

    山形県生まれ。ライターなど。放送作家のキャリアを生かし、テレビ・ラジオ番組のおもしろさを伝える解説文を年間150本以上執筆。趣味は観ること(プロレス、サッカー、相撲、ドラマ、お笑い、演劇)、遠征、料理。

             

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