安土桃山時代の名品が会場に!特別講座「知られざるサムライアートの世界へ ~名刀名品の見どころがわかります~」レポート

安土桃山時代の名品が会場に!特別講座「知られざるサムライアートの世界へ ~名刀名品の見どころがわかります~」レポート

2024121日(日)に、NHKカルチャー文化センター・青山教室で『名刀甲冑武具大鑑』(NHK出版)発刊記念特別講座「知られざるサムライアートの世界へ ~名刀名品の見どころがわかります~」が開催されました。

講師は著者でメトロポリタン美術館名誉特別顧問・ボストン美術館名誉部長の小川盛弘先生。司会は元NHKキャスターの篠原佐和さん。 “サムライアート”の言葉を生んだ小川先生による名刀名品解説、ラストには安土桃山時代の名品(実物)も披露された講座の模様をレポートします。

>>「知られざるサムライアートの世界へ」詳細はこちらから


目次


刀の種類や製造について…日本刀の基礎知識

名刀名品解説の前に日本刀についての基礎知識を講義。まずは日本刀の変遷について。古墳時代に大陸から伝来した反りがない「直刀」、続いて、反りを備え、馬上で片手で抜いて断ち切るために使われた「太刀」への流れを説明。

映画やドラマなどの時代劇で登場する「刀(打刀)」と短い刀「脇差」を刃を上にしてセットで腰に差す「大小二本差」の解説も。仏教的信仰の対象として作られた「剣」や護身用の「短刀」などさまざまなスタイルを持つ日本刀は、それぞれに特徴や役割があるのです。

また、日本刀の原料・玉鋼は製鉄炉で3昼夜かけて作られると小川先生。持参した1キロの玉鋼の現物や、玉鋼を刀に仕上げていく月山刀匠の鍛錬シーンの写真を交えて説明。かなりの時間を要する刀の製造過程のほか、刀鍛冶のもとを訪れた時の印象深いエピソードも披露。

小川先生と日本刀の出会い、アメリカでの功績

現在、メトロポリタン美術館名誉特別顧問・ボストン美術館名誉部長の肩書を持つ小川先生。日本刀の世界に惹きつけられるきっかけとなった師匠・佐藤寒山博士との出会い、日本刀を見定める眼を養うために師匠のもとに通った若き日々のエピソードを語りました。

20代で渡米し、ボストン美術館を活動の拠点にした小川先生。美術館の倉庫で刀剣類を点検している貴重な27歳の頃の写真を公開。その3年後に1976年に上野松坂屋ほかで開催された「アメリカ建国200年記念 ボストン美術館秘蔵 日本刀里帰り展」の秘話も。

さらに1982年にボストン美術館の中庭で行った人間国宝・月山貞一とその一門による日本刀鍛造のデモンストレーションがアメリカの新聞「ボストン・グローブ」の一面トップで報道された記録も紹介。紙面をモニターで見せながら、当時世界中の美術愛好家たちを驚かせ、歴史的な大事件だったと振り返りました。

大型8Kモニターで『名刀甲冑武具大鑑』のエッセンスを解説

名刀甲冑武具大鑑』左からセットケース・本編図版編・別冊解説編

国宝刀剣122口の内の大多数109口を掲載し、国宝の甲冑全19領を網羅した美術書『名刀甲冑武具大鑑』から、著者である小川先生が厳選。大型8Kモニターを使用して名刀11口、甲冑6領、戦具3件の解説を行いました。各ジャンルから2つずつ先生の解説をピックアップ、それぞれの画像もご紹介します。

三日月宗近と正宗の国宝刀…名刀編

本文より「国宝 太刀 銘 三条(名物三日月宗近)」

『名刀甲冑武具大鑑』より「国宝 太刀 銘 三条(名物三日月宗近)」

京都・三条に住んだとされる三条宗近の名刀。平安時代に作られたと伝わる刀の刃文に三日月の形が見えるのが号の由来。豊臣秀吉の正室・高台院が所持した後、2代将軍徳川秀忠に贈られた。綾杉肌が出た非常に美しい地鉄、腰でキュッと反った姿が素晴らしい大名品。天下五剣のうち最も美しいといわれている。

国宝 刀 金象嵌銘 城和泉守所持/正宗磨上本阿(花押) 東京国立博物館蔵

名刀というと必ず話題になるのは鎌倉時代に活躍した相州の刀匠正宗。この刀を正宗作と鑑定したのは安土桃山~江戸時代の刀剣鑑定家の重鎮・本阿弥光徳。地鉄の中にあられのような沸出来が見られる。評価の高いこの名刀は現在東京国立博物館で開催中の特別展「本阿弥光悦の大宇宙」(3月10日まで)で展示。本物を見ると自分の眼がきれいになって見識も高まる。 

天下の大名品と呼ばれる国宝鎧の見どころとは…甲冑編

 本文より「国宝 赤糸威鎧 兜・大袖付(梅鶯飾)」

『名刀甲冑武具大鑑』より「国宝 赤糸威鎧 兜・大袖付(梅鶯飾)」

『名刀甲冑武具大鑑』より「国宝 赤糸威鎧 兜・大袖付(竹虎雀飾)」

鎌倉時代~南北朝時代に作られたと伝わる「国宝 赤糸威鎧 兜・大袖付」の”梅鶯飾”と”竹虎雀飾”の2領は天下の大名品。”梅鶯飾”の正面の眉庇には恐ろしい顔でにらみつける獅噛。随所の金物に梅や鶯の飾りがあしらわれている。

一方、”竹虎雀飾”の兜の眉庇には雀と竹。袖には猫のように見える虎と竹が取り付けられている。上級クラスの武将の武器には赤色がよく使われていたことも留意しておきたいポイントのひとつ。奈良・春日大社の宝蔵で保管されてきた約700年前の格調高い鎧。美しい姿で残っているのは奇跡に近い。 

安土桃山時代の名品を会場で披露…戦具編

 

波濤図陣羽織 メトロポリタン美術館蔵

鎧の上に羽織った陣羽織。江戸中期に流行した尾形光琳の図案「光琳波」が背中にデザインされている。波の輪郭線が金の糸で強調され、抜群の迫力を放つ名品。羽織の内側には菊と家紋の刺繍が施されているのもポイント。

唐花唐草螺鈿鞍 個人蔵

安土桃山時代のものとされる美しい鞍。唐草が花に絡みついて咲いているデザインはヨーロッパの影響を受けている。鞍の内側にも市松模様の螺鈿が施されるなど、見えない部分にまで手が尽くされた名品。会場にはこの鞍の現物が登場。加湿器を3台設置して公開。実際に馬に乗る際に使用されたことがわかる擦れた部分なども指摘しながら解説した。

講座を終えた小川先生からのコメント

熱心に聞いていただけたようでよかったです。もうちょっと時間がほしかったですね。『名刀甲冑武具大鑑』の掲載写真は再現性が高く、実物と見比べても遜色がないほどですよ。時間をかけてじっくりご覧いただき、こんなにきれいなものがあるんだと思っていただけたらうれしいです。名刀や名品は修理を重ねて大事にされてきていることにも思いを馳せていただけたらありがたいです。

■【オンデマンド配信】知られざるサムライアートの世界へ 名刀名品の見どころがわかります!

サムライアートと呼ばれる日本刀や甲冑の美しさ・奥深さは、時代や国境を超え、傑出した存在感を誇っています。本講座は、国宝刀剣122口の内の大多数109口をたっぷりと掲載し、国宝の甲冑全19領を網羅した美術書『名刀甲冑武具大鑑』をベースに、大型8Kモニターで迫力のある画像を惜しみなく紹介しながら、名刀名品のとっておきの見どころを小川先生の名解説で堪能していただきます。

>詳細は こちら から

*申し込みは終了しました。


■講師プロフィール

小川盛弘先生(おがわ・もりひろ)
1946年生まれ。國學院大學卒。10代の頃から佐藤寒山(刀剣研究の泰斗)に師事し、師の勧めにより渡米。ボストン美術館刀剣・金工室長などを経て、現在はメトロポリタン美術館名誉特別顧問ならびにボストン美術館名誉部長。2020年、文化庁長官表彰。主な著書・監修書に『ボストン美術館蔵日本刀・刀装・刀装具集』(大塚巧藝社、1984年)、『Art of the Samurai: Japanese Arms and Armor, 1156-1868』(The Metropolitan Museum of Art、2009年)、『名刀甲冑武具大鑑』(NHK出版、2023年)など。

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■レポート/ライター
高田りぶれ(たかだ・りぶれ)

山形県生まれ。ライターなど。放送作家のキャリアを生かし、テレビ・ラジオ番組のおもしろさを伝える解説文を年間150本以上執筆。趣味は観ること(プロレス、サッカー、相撲、ドラマ、お笑い、演劇)、遠征、料理。

         
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