NHK BSプレミアム/Eテレの番組『カールさんとティーナさんの古民家村だより』はカラフルな古民家が立ち並び、“奇跡の集落”と呼ばれる新潟県十日町市竹所が舞台。この土地に移住したドイツ人建築デザイナーのカール・ベンクスさんと、アルゼンチン人の妻ティーナさんの暮らしぶりや地域の人々との交流を描く映像の歳時記です。
もともと建築デザイナーとしてヨーロッパと日本を行き来し、日本の木造建築をドイツに移築する仕事に携わっていたカールさん。現在は新潟で自ら再生した古民家に住み、朽ちかけた空き家を美しくよみがえらせる古民家再生を各地で手掛けています。今回カールさんに日本に移り住んだ経緯や古民家再生を始めたきっかけ、古民家の魅力などについて聞きました。
――日本に移住されてどのくらいになりますか。
30年近くになりますね。新潟県十日町市竹所を拠点に古民家の保存と再生に取り組んでいますが、仕事としてだけでなく、楽しみも兼ねています。実は竹所との出会いは偶然なんですよ。50歳くらいの時にヨーロッパでリタイア後に暮らす場所を探していたんです。そんな中、たまたま日本の竹所を訪れまして。あまりにも素晴らしい場所で感激したんですね。
――竹所のどんなところに魅力を感じたのでしょうか。
多くの自然が残っているところに惹かれました。第一印象で「ここはいい!」と思ったんです。ヨーロッパにはない、スギの木と田んぼがある風景や、朝起きると聴こえてくる鳥の鳴き声も気に入りました。妻のティーナは日本で土地を買って家を建てると聞いて最初は驚いたんですね。でも、世界中を旅した経験がある彼女は、ここがいかに特別な場所であるかを理解して、ものすごく好きになってくれたんです。
――番組の中でカールさんは竹所を“パラダイス”と表現されています。
パラダイスは「静かだけど寂しくない場所」というイメージでしょうか。湧き水がこんこんと湧く音が聴こえる中で、農家の方が棚田で米作りをしている。そんな光景が広がる竹所は住んでいて心から安心できる場所なんですよ。
――新潟の冬は雪が多くて大変でしょう。
雪は毎年平均して3メートルは積もるんじゃないかな。雪の壁が出来るくらいですね。新潟の雪は特に重いので、古民家など昔の建物はとても頑丈にできているんです。雪に対して強い構造が工夫されています。昔は屋根に積もった雪を下ろし、家の周囲の雪を取り除いて行き来できるようにする作業は、大変骨が折れるものでした。今はブルドーザーや除雪機などを使って作業できるようになり、昔に比べればはるかに暮らしやすくなったと思います。
――カールさんが古民家再生をライフワークとするようになったきっかけを教えてください。
竹所は美しい景観が魅力の場所です。でも、あちこちにあるサビだらけの朽ちかけた空き家が、その美しさを損ねているような気がしました。その中の、今にも倒れそうになっていた家屋のひとつを建て直したことがきっかけですね。そこから一軒一軒、古民家の再生を広げていきました。今竹所で10軒目となる古民家を建てていますが、もう少し増やしたいと思っています。
――改めて、日本の古民家の魅力はどんなところにあるとお考えですか。
一般的に家というものは50年~60年間、何も手入れをしていないと傷んで住みにくくなってしまいます。そうなると、壊さざるを得ません。でも、日本の古民家は壊すことなく再生できるんですよ。日本中に古民家がありますが、むやみに壊したり、捨ててしまうのは日本の文化の大きな損失になると思います。日本だけにある非常に特殊なもので、海外にはない文化ですから。その魅力を一人でも多くの日本人に再認識してほしいですね。
――素晴らしいと感じる古民家の技術があるそうですね。
釘やビスなどを使わずに木材同士を接合させる「継手」の技術が素晴らしいです。金属の釘をあまり使ってなかったことから生まれた技術なのでしょう。そのため、地震が来たら動くけど、折れない。日本の継手の技術は海外でも有名です。まるで魔法のようなこの技術は、今の若い大工さんにとってはなかなか難しいようですが…。
何百年も前から、大工の棟梁たちは自らの経験でもって家を造ってきました。彼らが建てた家が今でも古民家として残っているのはすばらしいことです。どれも良い材料を使って非常に頑丈に造られていて、しかも毎日見ても飽きないようなデザインなんですね。これらの古民家の面倒をちゃんと見て直せば何百年も維持できるんですよ。
――今までどのくらいの数の古民家を手がけられましたか。
竹所では今ちょうど10軒目、新潟の古民家が多いですが、他に日本各地で大体60~70軒近く手掛けています。1軒を再生するのには少なくとも1年間はかかるんですね。多くのスタッフを抱えているわけではないので大量生産はできないんですが、あと30~40軒は造りたいと考えています。できれば100軒まで頑張るつもりですよ。
――カールさんの仕事ぶりがテレビで放送されましたが、反響はいかがですか。
最近、私の仕事である古民家再生のファンの方にお会いすることが多くなりました。古民家を持っているわけでも造る予定もない方でも、日本の木造建築は非常に素晴らしいと感じてくれているようです。そのことに気付いてくれただけでもうれしいですね。
日本中に手入れされずに放置されている古民家がたくさんあります。新潟だけではなく、北海道から九州までいたるところにあるんです。それを壊さず、再生してほしいんです。古民家の面倒を見るのはなかなか大変ですが、次の世代に受け継いで100年200年と維持してもらえたらと思います。
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新潟県の“奇跡の集落”で日本の自然と古民家を心から愛するカールさんとティーナさん夫妻、その地域に住む人々たちの穏やかな生活。そして、古民家村の四季折々の美しい風景をつづる『カールさんとティーナさんの古民家村だより』。
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◆番組情報
NHK BSプレミアム/Eテレ『カールさんとティーナさんの古民家村だより』
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