戦乱の世に生きた総合芸術家・光悦に迫る特別展「本阿弥光悦の大宇宙」レポート

2024年2月16日

東京・上野公園にある東京国立博物館平成館にて特別展「本阿弥光悦の大宇宙」が3月10日（日）まで開催されています。

戦乱の世から江戸時代にかけて活躍した総合芸術家・本阿弥光悦（ほんあみこうえつ・1558～1637）は優れた刀剣鑑定家であり、書や陶芸の名人。その作品の多くは国宝や重要文化財となっています。宇宙のように果てしなく謎に満ちた光悦の全体像をルーツや信仰、ゆかりの作品から探る本展の見所を紹介します。

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総合芸術家・本阿弥光悦とは
本阿弥家が認めた国宝級の刀剣たち
本阿弥光悦が作り上げた芸術品の数々
光悦ゆかりの品々を8Ｋ映像で細部まで味わう
光悦の作品世界を表現したオリジナルグッズを販売
特別展「本阿弥光悦の大宇宙」概要
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総合芸術家・本阿弥光悦とは

本阿弥光悦が誕生したのは桶狭間の戦いの2年前にあたる1558年。将軍家や大名から認められる刀剣の研磨や鑑定を行う本阿弥家に生まれました。

織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の三英傑が生きた戦乱の世から太平の世となった江戸時代初頭1615年に家康から京都・鷹峯の領地を与えられます。その場所に篤く信仰していた日蓮法華宗信徒の美術工匠たちを集めて光悦村を開きました。

光悦は家職で磨かれた審美眼と職人たちとの関わりの中で革新的な芸術品を多数生み出しました。

本阿弥家が認めた国宝級の刀剣たち

光悦の唯一の指料とされる刀剣や刀剣鑑定の名家・本阿弥家が高く評価した名刀たちが集合。光悦のルーツをたどるとともに国宝級の名刀の輝きも堪能できます。

（左）重要美術品《短刀　銘兼氏　金象嵌花形見》志津兼氏　鎌倉～南北朝時代・14世紀
（右）《刻鞘変り塗忍ぶ草蒔絵合口腰刀》江戸時代・17世紀

光悦が所持したと伝わる唯一の刀剣が本展で約40年ぶりに公開となります。作者は美濃国(現・岐阜県)志津の刀工の兼氏。ゆったりした湾れと互の目が連なった刃文が特徴的な相州伝の作風が目を引きます。

茎の指表には「兼氏」の銘と指裏には光悦の筆とされる「花形見」の金象嵌は必見です。刀剣を納める忍ぶ草の金蒔絵が美しい拵(刀装)も。鮮やかな朱漆で塗られた鞘もじっくり鑑賞しましょう。

ほかにも、刀剣界の権威・本阿弥家から別格に高く評価された刀鍛冶たちの名刀も展示。鎌倉時代の刀鍛冶・相州正宗作の国宝「刀　無銘正宗(名物観世正宗)」・国宝「刀　金象嵌銘城和泉守所持正宗磨上本阿(花押)」、京・粟田口派の短刀の名手で通称藤四郎、粟田口吉光作の国宝「短刀　銘吉光(名物後藤藤四郎)」。

本阿弥家九代光徳の指料で、豊臣秀吉から拝領したと伝わる備前刀工・長船長重作の国宝「短刀　銘備州長船住長重甲戌」と刀剣ファンに人気の名刀も必見です。

本阿弥光悦が作り上げた芸術品の数々

本阿弥光悦が生み出した作品は国宝や重要文化財に指定され、現在もその大胆かつ繊細なクリエイティブが大きな影響を与えています。刀剣の目利きであるだけでなく、書や漆芸、陶芸などの才能にも秀でていた光悦の傑作の数々を見ることができます。

国宝《舟橋蒔絵硯箱》本阿弥光悦作　江戸時代・17世紀　東京国立博物館蔵

フライヤーやポスターにも大きくデザインされたインパクト抜群の硯箱は俵屋宗達風の意匠に鉛や螺鈿を用いる漆工作品「光悦蒔絵」の代表作のひとつ。本展入口すぐに展示してあり、文房具とは思えない今にも破裂しそうに膨らんだ斬新なフォルムが目を引きます。

金地に舟が４艘並び、その上に黒い鉛板を掛けて「舟橋」を表現。後撰和歌集の物語を光悦流の大きな銀板文字で書かれているのも特徴。見れば見るほどアバンギャルドなデザインな山型の硯箱。実際に所持者が使用している光景を想像しながら国宝を堪能するのも楽しいでしょう。

左から扁額「本門寺」本阿弥光悦筆　江戸時代・寛永4年(1627) 東京・池上本門寺蔵、扁額「妙花法華経寺」本阿弥光悦筆　江戸時代・寛永4年(1627) 千葉・中山法華経寺蔵

「扁額（へんがく）」とは門や戸などに掲げる細長い額のこと。1627年に東京・池上本門寺の総門に掲げられた光悦筆の額。名筆家と呼ばれた光悦ですが、この３文字を何度も書き続けたが意に沿うものができず、弟子に選ばせて決定したという逸話があります。現在池上本門寺にはこの額を複製したものを掲出。本展では「本門寺」と並んで、日本各地の寺から集めた光悦筆の「扁額」を並べて展示。光悦ゆかりのスポットをまとめたマップも合わせてチェックを。

重要文化財《鶴下絵三十六歌仙和歌巻》(部分) 本阿弥光悦筆／俵屋宗達下絵　江戸時代・17世紀　京都国立博物館蔵

江戸時代初期の画家・俵屋宗達が鶴が飛ぶさまを金銀泥で描いたとされる料紙に、光悦が平安時代の和歌の名人36人「三十六歌仙」の和歌を散らし書きした和歌巻。鶴が飛び立ち、上昇、下降して着地するまでを描いた下絵に合わせて、巧みに字の形や大きさ、筆致を変化させた光悦充実期の代表作です。

本作では墨書の上に金銀泥を塗った箇所などがあり、光悦と宗達が同じ場所で共同作業をしたのではという見方も。今回は通期で13メートル以上ある全巻を一挙公開。また会場では本作上方に和歌巻を模した装飾が施され、光悦の世界観が体感できます。

《黒楽茶碗　銘村雲》本阿弥光悦作　江戸時代・17世紀　京都・樂美術館蔵

光悦村には茶碗などの樂焼で知られる樂家2代・常慶とその子である道入の2人も。光悦は親子と親交を深めながら、作陶に励んだとされています。本作は手づくねによる成形、へらで削り込む樂焼の手法で作られた黒茶碗。削りの過程で偶然生まれたひび割れも造形に取り込んだ表現も注目です。

同じ黒楽茶碗でも鋭さや険しさの漂う「雨雲」や「時雨」と異なり、本作の丸みの帯び方や佇まいから愛らしさが感じ取れます。器の周りをぐるりとまわってさまざまな角度からじっくり見比べてみましょう。

光悦ゆかりの品々を8Ｋ映像で細部まで味わう

会場内では「舟橋蒔絵硯箱」「蓮花下絵和歌巻断簡」「刀金象嵌銘江磨上光徳(花押)(名物北野江)」「黒楽茶碗　銘村雲」など本展の注目作品をNHKの最新テクノロジーを使った超高精細の３DCGで楽しめる映像も公開しています。８Ｋ映像技術や最先端のスキャナーなどを駆使して制作された美麗映像で新たな作品の魅力が発見できますよ。

光悦の作品世界を表現したオリジナルグッズを販売

Tシャツやクリアファイルなどの定番アイテムのほか、「舟橋蒔絵硯箱」を模ったマスコットキーホルダー、「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」柄のマスキングテープやレターセット、刀剣ペーパーナイフなどバラエティに富んだグッズが多数。

気に入った作品がモチーフになったアイテムをお土産にどうぞ。

特別展「本阿弥光悦の大宇宙」概要

■会期：2024年1月16日(火)～3月10日(日)
■会場：東京国立博物館平成館
■開館時間：9時30分～17時
※2月16日（金）から、毎週金・土曜日は午後7時まで
※入館は閉館の30分前まで
■休館日：月曜日、2月13日（火）※ただし、2月12日（月・休）は開館
■観覧料（税込）：一般 2,100円大学生 1,300円高校生 900円
※中学生以下、障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に学生証、障がい者手帳等をご提示ください。
■公式サイト：https://koetsu2024.jp/

※会期中、一部作品の展示替えを行います。
※展示作品、会期、展示期間等については、今後の諸事情により変更する場合があります。
※最新情報は公式サイト等でご確認ください。
※事前予約不要です。混雑時は入場をお待ちいただく可能性がございます。

本阿弥光悦（ほんあみこうえつ・1558～1637）は戦乱の時代に生き、さまざまな造形にかかわり、革新的で傑出した品々を生み出しました。それらは後代の日本文化に大きな影響を与えています。しかし光悦の世界は大宇宙（マクロコスモス）のごとく深淵で、その全体像をたどることは容易ではありません。
そこでこの展覧会では、光悦自身の手による書や作陶にあらわれた内面世界と、同じ信仰のもとに参集した工匠たちがかかわった蒔絵など同時代の社会状況に応答した造形とを結び付ける糸として、本阿弥家の信仰とともに、当時の法華町衆の社会についても注目します。造形の世界の最新研究と信仰のあり様とを照らしあわせることで、総合的に光悦を見通そうとするものです。
「一生涯へつらい候事至てきらひの人」で「異風者」（『本阿弥行状記』）といわれた光悦が、篤い信仰のもと確固とした精神に裏打ちされた美意識によって作り上げた諸芸の優品の数々は、現代において私たちの目にどのように映るのか。本展を通じて紹介いたします。

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