<どうする家康>探検隊 #3 〜さらば瀬名、さらば信長、さらば数正〜

<どうする家康>探検隊 #3 〜さらば瀬名、さらば信長、さらば数正〜

ステラnetで人気のあのドラマレビューのメンバーがNHKグループモールにやってきました。4回に分けて大河ドラマ「どうする家康」の魅力を語ってくれます。

#3は「どうする家康」の第23回〜33回を振り返ってご紹介。

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■登場人物

  • 同門センパイ 大河ドラマ長年のファン
  • 大河見た蔵 最近大河ファンになった「大河初心者」
  • 大河見た花(みたか) 見た蔵の妹 「歴史大好き女子」

目次

瀬名の「平和工作」が招いた悲劇

瀬名が考えた「とんでもない」こと

見た蔵 DVDボックス完全版第参集では、次から次へと大事件が起こります。ちょっと目がくらみそうなくらい。
見た花 まずは瀬名の「とんでもない」考えと行動、その悲しい結末ですね。
同 門 結果として家康は、瀬名と嫡男・信康を自らの手で亡き者にすることになる。そんな耐え難い悲劇で幕切れになるんだ。
見た蔵 二人の最期のシーンは、このドラマ最大級のヤマ場となりました。泣けた!
見た花 瀬名の考えは、東日本の大名たちが「いくさなき世」の理想を共有して大きな連合体を作り、通貨を統一して自由な交易を行い、政策は話し合いで決める。そうすればお互いにいくさはしなくて済むし、信長の軍事力に対抗できる、ということでした。
見た蔵 でもねえ……。歴史初心者のボクですら、「瀬名さん、本当にそんなことできると思ってるの?」と突っ込んじゃいました。本人は命がけ、真剣ですけど。
同 門 そうだね。現代で言えば、EUと国際連合と、NATOが合わさったような構想。瀬名の考えをこの三つに当てはめていうと、「統一通貨による交易」はEU,「話し合い」は国連、「信長の武力への対抗」としてNATO、といったところかな。
見た花 でも今、その三つの組織は、世界平和のためにはうまく機能していないように見えますが……。
同 門 そうだね。平和を望まない国は、今世界のどこにもないはず。にもかかわらずうまくいかない。まして戦国時代での実現はまず無理だったろうねえ。

あえなく崩壊した「はるかに遠い夢」

見た花 この構想では、武田・徳川に加えて、北条、上杉、伊達といった有力勢力をまとめる必要がありますが、その仲介役が北条の居候の今川氏真と隠居中の久松長家とは……。ちょっと弱い気がするなあ。せめて策士・本多正信レベルの人材が欲しい。
同 門 仮にそういった連合体が出来たとして、参加各国の話し合いはうまくいくかな? 軍事力が大きい武田が主導権を握るぜ、絶対。武田は自国に不利な議題が出たら、必ず反対するよ。そうしたら話し合いは決裂だ。
見た花 現代の国連でいえば、常任理事国の「拒否権」行使ですね。
見た蔵 交易をすれば平和になる、っていうのも、どうかな? 「経済戦争」ってこともあるでしょう?
同 門 そうだよ。自国の生産品は高く売りたいし、買う国はできるだけ安く買いたい。そのやり取りがこじれて戦争になるなんて、歴史上珍しくない。
見た蔵 ドラマでは瀬名の話に武田の重臣・穴山信君が心を動かされて、武田勝頼をなんとか説得しましたが、勝頼は十分納得しません。案の定、最後は離脱を決意します。彼は「瀬名構想」を「おなごのままごと」と決めつけていましたね。
見た花 やっぱり勝頼は父・信玄を超えたいから、武力で天下を取りたい。それで「瀬名の謀略を世にぶちまけよ」と家臣に命じて、「瀬名構想」は信長の知るところとなり、あえなく崩壊します。

通説に挑戦! <どうする家康>の大冒険

同 門 史実としては、瀬名と信康は二人とも処刑となった。武田と内通したかどでね。しかし製作陣としては、これを尊重しつつ、新たなドラマを作りたかったんだろう。そのチャレンジの典型が今回の瀬名像。これはとても大胆な試みだったんだよ。
見た蔵 この作品の瀬名は、夫を愛し、平和を願う、心優しい女性ですね。有村架純の清々しい演技が忘れられないです。
見た花 この設定が、これまでメディアで描かれてきた瀬名像とは正反対でした。
見た蔵 うん。ネットで調べたら、「瀬名=悪妻」が通説ですよ。
同 門 「悪妻説」は江戸時代になってから生まれたそうだ。そこには家康が正室と嫡男を処刑したことを正当化しようとする、徳川幕府の意図がちょっと匂うんだなあ。
でも戦後この説が広く流布するようになったのは、二人の大作家の小説がきっかけだ。山岡荘八の『徳川家康』、そして司馬遼太郎の『覇王の家』。
見た花 ワタシも読みました。お二方とも瀬名が武田側の人間(滅敬・ドラマでは変装した信君)と男女の関係となり、信康とともに武田に寝返ろうとしたと書いています。
でも瀬名については、同時代の確たる史料がないそうですね。だとすれば、先生方の見方も結局は「創作」ということになりますよ。
同 門 まあ、お二方とも創作にあたって「悪妻」説を採用したわけだ。自作の登場人物をどういうキャラにするかは、作家の判断だからね。でも私たち素人は大作家がそう書くなら、そうなんだと思ってしまう。だからその通説は強いんだよ。
見た蔵 もし根拠が薄いなら、瀬名が気の毒ですよね。
同 門 二人の先生がちょっと罪作りなのはそこかな。いずれにせよ史料のほとんどない人物造形なのだから、今回の大河の瀬名の設定が、「間違い」とは誰も言えない。
見た花 もしかしたら、ドラマのほうが真実に近いかもしれない、ということですね。
同 門 そうだ。脚本の古沢良太とドラマ制作陣は、強固な通説にあえて正面からぶつかって、挑戦した。そんな大冒険に踏み切った勇気には、大きな拍手を送りたいね。

「本能寺の変」が明らかにした、信長の「真情」

信長が初めて吐露した内面の苦悩

見た蔵 瀬名と信康を処刑した後、家康は変わりました。
見た花 もうオタオタしなくなった。眼光も鋭くなり、自分の意思をハッキリ示すようになりました。いわば<どうする家康>から、「こうする! 家康」への大変身。
同 門 その一方で、腹の内を容易に外に見せなくなった。信長が褒めていたね。
見た蔵 さてその信長。本能寺の変の少し前あたりから、謎の武将に襲われる悪夢を見て、恐れおののくシーンが何回か出てきました。こんな信長、初めて見た。これも<どうする家康>のオリジナルの工夫なんですね。
同 門 いわば信長の内面に踏み込んだんだ。悪夢におびえる信長像なんて、大河ドラマ含めてメディア史上初かもしれない。彼は「自分が殺した者全員の痛みや苦しみを、己が引き受けなければならない」と、苦しみを吐露するようになった。
見た蔵 スパルタ教育に苦しむ幼いころの場面も出てきました。これ、トラウマですね。
見た花 そうね。ワタシがすごいと思ったのは、第27回に、信長と家康二人が対峙する長いシーンがありましたよね。
同 門 ああ、衝突の挙句、最後に信長が「オレを討ってみろ」という、事実上「武力でオレの後継者になれ」と匂わせたシーンだね。
見た花 その前半部分で、家康が信長の生まれについて何気ないひと言を言ったときに、信長の頬がほんの少し、ピクッと動きましたよ。トラウマが信長を襲ったんです。DVDをサーチしてみてください。岡田准一の名演技ですよ!

繰り返し描かれる「父を越えられない息子」のモチーフ

見た蔵 <どうする家康>の信長は、父親の強烈な影響の下で、その精神にのっとって生きてきた。「自分以外は全て敵と思え」。でも信長の本音としては、それは相当しんどかったんでしょうね。五十歳を前に、その疲れが出てきたんだな。
同 門 言い換えれば、彼の自己形成の来歴は、父親との相剋だったということだね。
このドラマには「偉大な父と、それを超えられない息子」のモチーフが繰り返し出てくる。今川義元と氏真、武田信玄と勝頼、それから家康と信康。ドラマではそのパターンに信長も入っているように見えた。私にはそこがちょっとなあ……。
見た蔵 実際そういう描き方じゃないですか。ボクは「信長は父親に対抗して、相当無理してコワモテをやってたんだな」と思いましたよ。結果として父親よりはるかにすごいことを成し遂げたんだから、この人は父親を超えた。だから褒めてあげたいです。
同 門 うーん。私としてはねえ、信長は父親ウンヌンとは関係なしに、凡人の理解の届かない「戦国の異端児、冷酷非情な革命家」であることを期待していたんだよ。
見た花 でもセンパイ、岡田准一はDVDの特典映像のインタビューで、信長の「限界」を表現するのが大きな課題だった、と言っています。読みの深い芝居だったんですよ。
同 門 うん、私の期待をいい意味で裏切る演技をしてくれた。そこはさすがだな〜。
見た花 その「限界」の結果、信長は「討たれるなら家康」と思ったわけですから。
同 門 その思いを下支えしたのも、父の教えだね。「友はただ一人、コイツになら殺されてもいいと思う人間にしろ」。彼にとって家康は、そんな唯一の友だったんだ。
見た蔵 なぜですかね。家康も信長が好きだったんでしょうか。そうは見えないけど。
同 門 いや、家康も内心信長が好きだったんだ。織田と徳川の同盟は二十年続いたんだよ。これは離散集合の激しかった戦国時代では異例の長さだ。
このドラマでは家康は信長に本音でぶつかっていた。信長はそこが気に入っていたんだよ。だから側からは対立しているように見えても、実は深い「絆」があった。私たちだって、胸の内をさらけ出してケンカした人と、後で親友になることがあるじゃないか。

「真紅の着物」が明らかにする「信長の真情」

見た花 そういえば信長は本能寺で襲撃されたとき、てっきり家康が討ちに来てくれたのかと思って、「家康! 家康!」と探していましたね。
見た蔵 そしたら明智光秀と知ってガックリ。これは気の毒でした。でも本当に家康が本能寺の変を起こしていたら、どうなったんでしょうね?
同 門 そりゃ明智の大軍に攻め込まれて、家康は即討ち死にだよ。そして主君の仇を取った光秀が織田政権を握ることになるな。
見た花 そうなれば光秀はラッキー。信長は家康が殺してくれて、政権ナンバー1の地位が転がり込んできます。後年の関ケ原の合戦は豊臣対明智のいくさになってたかも。
同 門 信長について最後にひとつ。この連載の第一回で予告したんだが、家康と出会ったころの信長の真紅の着物のことだ。本能寺で最期を迎えた彼の白い寝巻が、血に染まって真っ赤だったよね。その場面に少年時代のシーンが挟み込まれていた。
見た蔵 ああ、相撲を取って家康をめっちゃシゴいていた場面ですね。信長の妹のお市によれば、それが彼の人生でいちばん幸せだった時期だった、という。
同 門 つまり人生最期の装束が、血染めとはいえ、幸福だったころと同じ色。そこに信長の人生を総括するような、作り手のメッセージが込められていたと思うんだ。
ここで一句。くれないの 炎と袖に 友の顔
見た蔵 見た花 はあ〜。なるほどねえ……。
同 門 アレ? 反応が薄いなあ(笑)。

石川数正、出奔! そのメッセージ

「関白殿下これ天下人なり」は家康への絶縁状?

同 門 本能寺の変の後、豊臣秀吉は明智光秀を討って、さらに関白に任ぜられ、強大な権力を手にする。旧信長家臣団との軋轢が生まれ、家康も小牧・長久手の戦いで秀吉に一矢報いるんだが、大勢は変わらず。頭に血が昇った徳川家中は秀吉との最終決戦を決意するんだが、ただ一人それに反対するのが、石川数正。
見た花 徳川家中は誰も彼を相手にしない。それどころか秀吉のスパイかと疑う。そこで彼は出奔せざるを得なくなる。その経緯が第33回「裏切り者」に描かれます。
見た蔵 あの苦虫を嚙み潰したような顔がもう見られないと思うと、ちょっと寂しいな。
見た花 長年支えてきた家康との、断腸の別れですね。天下人にこだわる家康に対して、「関白殿下これ天下人なり」という書き置きを残して。
同 門 ほとんど絶縁状だね。まあ、このとき数正は五十二歳。「人生五十年」の時代だから、隠居してもいい年齢だ。今の世に例えれば、徳川株式会社を定年退職して、豊臣株式会社に再就職、という感じじゃないの。亡くなったときは六十歳。そのころ秀吉は「朝鮮出兵」を行うなど、まだまだ意気軒昂だったんだよ。
見た蔵 数正の存命中は秀吉がまだ「天下人」のままだったんですね。「関白殿下これ天下人なり」という彼の書き置きはその時点で正しかったんだ。

忠臣・数正の「最後の忠義」

同 門 数正は徳川家の外交担当として、長年大きな業績を上げてきた。優れた外交官だけに、諸国の情勢を見渡す眼力を備えている。だから徳川には勝ち目がないことがわかっている。それで秀吉の傘下に入ることを家康に進言したわけだ。
見た蔵 家康は彼に怒鳴りました、ワシは秀吉に劣るのか!って。劣ってるよ!(笑)。
同 門 ラスト近くの、家康と数正の二人だけの場面は、見ごたえがあったね。特に松重豊の、胸の内と真逆の言葉で家康を諫めようとする演技はすごかった。
「私はどこまでも殿と一緒でござる!」という言葉とは裏腹に、数正は家康からあえて離反する。それによって、秀吉とのいくさを断念させた。天下泰平のため、徳川のためにはまずはそうするべきだ、というメッセージを彼は発信していたんだ。
見た花 やり方が違うから離反したけれども、「いくさなき世」を思う気持ちは家康と同じなんですね。あの書き置きは絶縁状に見えるけど、実は「最後の忠義」でした。
見た蔵 家康は内心では数正の言うことは分かってたようです。でも家臣の手前、なかなかウンとは言いづらかったんでしょうね。家康はまだ「半分、青い」んだなあ。

これからも女性キャラの大活躍に期待!

同 門 今回も瀬名はもちろん、女性キャラの活躍が目立ったね。信長の妹、お市は重要だが、その娘の茶々がこれから大活躍するから、二人まとめて次回に話そう。
見た蔵 ボクは服部半蔵の配下の忍び・女大鼠を推しますね。
見た花 ビビってる家康の家臣に代わって瀬名の介錯をしたり、汚れ役を一身に担っていますよね。武田との戦闘で腕にケガをして、忍びの仕事にハンデを背負ってしまう。
見た蔵 ボクが好きなのは、服部半蔵がそんな彼女にプロポーズするシーン。小さな花を差し出して、おなごの幸せは男にかわいがられることだ、とか言って……。
見た花 女大鼠はその花をかじり捨てて、「殺すぞ!」と一蹴。
見た蔵 いやあ、あれは彼女ならではのOKの返事に思えるんだけどな。半蔵の言い方は「仕事をやめて専業主婦」になれ、でしょ。それはもちろんNO。だけど、その後二人は仲良く一緒に仕事してる。夫婦になったんですよ。一生独りなんてかわいそうですし。
見た花 半蔵の求婚を退けて、忍びのキャリアを選んだのよ!「独りがかわいそう」なんて、考え方が古いなあ。だからお兄ちゃんにはいつまでも彼女ができないのね。
同 門 まあまあ(笑)。自由に妄想するのもドラマの楽しみ方には違いないから……。
見た花 ワタシが喝采したいのは秀吉の正室・寧々。世の平和を祈るキャラ。家康に対して居丈高に振る舞う秀吉を、みんなの前でビシッと諫めていました。
見た蔵 そのかかあ天下ぶりにはボクも恐れ入った。秀吉は、おなごが幸せなのがいい世の中だ、と言ってたけど、あれ、本音じゃないな。きっと寧々が言わせたんですよ。
同 門 このドラマ、平和を祈る女性が次々と登場してきたよね。瀬名をはじめ、家康の側室の於万・於愛、氏真の妻・糸……。寧々もこれから大活躍するよ。
同 門 見た蔵 見た花 さて今回はここまで。お読みいただきありがとうございます!次回はいよいよ大団円! 2月中旬アップの予定です。お楽しみに!(構成 阿部ヒロユキ)

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◾️ライター
阿部ひろゆき
ライター。長年テレビ情報誌の編集に携わる。2023年は”ステラnet”(※)でレビュー記事『どうする家康』テレビ桟敷談義」を一年間連載。副業はブルースハーモニカ奏者(演奏経験豊富。しかしすべて無報酬……)。

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