<どうする家康>探検隊 #1 〜「家康レガシー」の”お宝”を探せ!〜

<どうする家康>探検隊 #1 〜「家康レガシー」の”お宝”を探せ!〜

ステラnetで人気のあのドラマレビューのメンバーがNHKグループモールにやってきました。4回に分けて大河ドラマ「どうする家康」の魅力を語ってくれます。まず初回#1は「どうする家康」の第1回〜11回をザザッとご紹介。

■登場人物

  • 同門センパイ 大河ドラマ長年のファン
  • 大河見た蔵 最近大河ファンになった「大河初心者」
  • 大河見た花(みたか) 見た蔵の妹 「歴史大好き女子」

目次

家康の出発点となった二人のキーパーソン

<どうする家康>探検隊のミッション始動

 二人に集まってもらったのはほかでもない。私たちは「探検隊」として、<どうする家康>全編に分けいって、家康の成功の秘密を探っていく、というミッションを受けたんだ。

見た蔵  見た花  ガッテン了解です! 楽しそうな挑戦です!

見た蔵 このドラマの特徴は「弱い家康」。第一回の冒頭のシーンから城を逃げ出して「(いくさは)もうイヤじゃー!」って泣き叫んでいたのが……。

見た花  最終回では首を取りに来た真田信繁に素手で立ち向かっていました(笑)。

見た蔵 そんな家康の変身を演じきった松本潤の演技が見事だったよね。

同 門 「弱虫」だった家康はそんな大成長を遂げて、260年にわたる泰平の世を築き上げた。そこにはどんな秘密があったのか。またそこには、現代に生きる私たちにも教訓となる”お宝”もあるはずだよ。

さて、まず心に留めたいのは、家康は幼少年期から家族に恵まれなかったことだ。

見た花 3歳で生母と引き離され、6歳から織田そして今川の人質。父親は8歳の時に亡くなっています。親からの愛情や教えはほとんど受けなかったでしょう。

同 門 だからこそ家康の成長には、人との出会いが欠かせなかったと思うんだ。

家康の「心の父」今川義元

見た花 まずは幼いころの人々との出会いが大切ですね。

同 門 そう。そんな存在が二人いる。私がまず挙げたいのが、今川義元だ。

見た蔵 ええっ? 第一回で信長に討たれて、評判はあまりよくないですよ。

同 門 とんでもない。彼は超一流の教養人で、礼節を重んじ、善政を施して、領民にも慕われた名君だったんだよ。桶狭間の敗戦は人生唯一の不覚だった。

ドラマでは野村萬斎の威厳に満ちた、時にユーモラスな演技がたっぷり楽しめたね。

見た花 人質の家康の才能を高く評価していました。君主教育まで施していましたね。嫡男の氏真がいるのに、いいのかな(笑)。

同 門 義元は家康が初めて出会った、信服できる父親的な存在だった。そもそも家康が生涯をかけて実現しようとした「いくさなき世」という考えのルーツは義元だよ。

見た花 そういえば回想シーンにしばしば登場して、家康を導いてますよね。

同 門 ここでは詳しく言わないけど、DVDを見るときは、折々の義元の言葉に注目してほしいね。彼の思想こそが、家康の人生のスタート地点であり、ゴールであるということがよくわかるよ。

「スタイリッシュ」な信長とは?

見た蔵 もう一人は、当然織田信長でしょ? まあ兄貴分というところですが、幼い家康に向かって「白ウサギのようじゃ……食ってやろうか!」。岡田准一、怖っ!

見た花 家康を格闘技でボコボコにしてました。鍛えてるつもりなんでしょうが、ほとんどDV(笑)。でもこれで家康はたくましく成長できたんですかね。

同 門 信長は有名人だから、特に解説はいらないよね。でも一言だけ。

家康と共に過ごしたのは10代半ば。この年ごろの信長は、これまでの小説や映画やドラマでは、「うつけ者」として描かれてきたんだ。

見た花 家臣は彼を「バカ」と思っていたんですよね。変なマゲを結って、ボロの着物、荒縄の帯に瓢箪ぶら下げて……。でもこのドラマでは、父親にビシッとモノを言う。真っ赤な着物がスタイリッシュで、カッコよかった!

同 門 しかし同じ脚本家(古沢良太)の作品で、木村拓哉が信長を演じた映画『レジェンド&バタフライ』では、ちゃんと「うつけ者」として登場するんだよ。

見た蔵 ということはスタイリッシュな信長は、このドラマのオリジナルなんだ。

同 門 そう。実はこの真紅の着物には、深い意味が込められているんだよ。それは本能寺の変で明らかになる。それは何か? 今は秘密にしておくね。

それから彼の妹・市。家康に思いを寄せる役どころだが、兄譲りの勇ましさで、こんなことを言っていた。乱世は楽しい、力さえあれば何でも手に入る、と。この考えは娘の茶々に受け継がれて、ドラマ終盤に波乱を呼ぶことになる。これも後々のお楽しみだ。

「民のために生きる」〜三河一向一揆の教訓

若き家康が初めて直面した苦難のいくさ

同 門 さて何とか三河の領主となった家康に、三河一向一揆という最大の試練がやってくる。これは本当に徳川家の存亡がかかった大事件だ。

見た花 ときに家康23歳。そのころ三河には抵抗勢力が多くひしめいていて、彼はその鎮圧のためにいくさ続きの毎日でした。

見た蔵 そのために岡崎城は兵糧も尽き、三河の領民は困窮のどん底にあえいでいた。

同 門 そこで家康が思いついたのが、年貢免除の特権を持つ寺院から、米を徴収することだ。交渉を始めるんだが、これが難航する。

見た花 一向宗の大規模寺院・本證寺では、食料を飢えた民に分け与えています。

住職の白誓上人は、集まった民に、この世を地獄にしているのは、愚かないくさを続けている武士だ、と徹底批判です。

同 門 年貢を領主に納めるなんてハナから考えていない。そこで家康は武力解決を図るが、対する寺側は武装して抵抗を始める。これが三河一向一揆だ。

見た蔵 そこで家康軍は大苦戦。信徒たちは、阿弥陀如来が来世の極楽を保証していると信じている。だから死を恐れずに家康軍に立ち向かったのが、強さの理由でした。

領主の一番大切な責務とは?

見た蔵 しかし考えてみると、白誓上人の教えは、家康の「厭離穢土欣求浄土」と同じですね。家康だって民の困窮の理由が自分らにあることはわかっているでしょうに……。

同 門 「好きでいくさをしてるわけではない」と言いながら、結局一揆は武力で鎮圧せざるを得なかった。当然犠牲者も多く出ただろう。信念と行動が矛盾していて、その分家康の悩みは深いよね。

でもこのいくさから学んだのは、「領主の自分は何のために存在するべきなのか」。このいくさの辛い体験が、家康を大きく成長させることになったんだ。

見た花 ここで義元が回想シーンで登場。その答えを与えるんですね。

同 門 この国のあるじは「民」である……。民を守ることが第一の使命。それまで領主の威厳を保つことしか頭になかった家康に、新たな、大きな目標が与えられたんだ。

見た蔵 それにしても家康の家臣たちのうちに一向宗徒がいて、彼らは続々と寺側についてしまいます。主君より信仰。そんな武士もいたんですね。

同 門 もちろん彼らの神仏信仰は篤かったんだよ。だって武将たちは神社仏閣への戦勝祈願を欠かさなかったからね。「比叡山焼き討ち」などで、「宗教嫌い」のイメージが強い信長ですら、いくさにあたっては常に神仏の加護を祈っていたんだ。

「第三のキーパーソン」本多正信

見た花 驚いたのが、本多正信の行動です。忠臣と思ってたら、なんと一向宗の参謀となって、家康の命を狙うなんて!

同 門 彼自身、幼なじみがいくさによって悲惨な末路をたどったのを見てきた。しかも彼女は阿弥陀如来を信仰していた。彼はその苦い思い出ゆえに、家康に歯向かって一向一揆に加担したんだね。

見た花 一揆が治まって、捕えられた正信は家康を一喝します。「オマエが民を楽にしてやれるのなら、誰も仏にすがらずに済むんじゃ!」。もし家康が真っ当な領主なら、一揆など起こらない、と。考えの筋道は義元と同じですねえ。

同 門 この言葉は重い。でもさすが家康、彼のメッセージを正面から受け止めて、死罪のところを三河からの追放に留めた。正信を第三のキーパーソンにしてもいいかな。

見た花 その後正信は徳川家に復帰して、生涯にわたって家康を支える存在になります。

見た蔵 悪知恵にたけて「不埒な者」とほかの家臣から嫌われてるけど、本人はどこ吹く風(笑)。松山ケンイチの飄々とした演技も笑いを誘って、楽しいですね。

戦国を生きる女性たちの肖像

誰にもわからない、瀬名の「真の姿」

見た蔵 センパイ! ここまででキーパーソンが三人出てきましたが、もっと大事なキャラを忘れてませんか?

同 門 ああ、瀬名ね? 彼女は後にもっと大きな出来事に関わるから、そこで詳しく話そうよ……。でも有村架純ファンのキミのために、少しだけ触れておこうか。

見た蔵 瀬名=「悪妻」説が幅広く言われてきたようですが……。それが気になって。

見た花 ワタシも山岡荘八の『徳川家康』と、司馬遼太郎の『覇王の家』を読んだんですが、この二作とも瀬名を「悪妻」としてひどい描き方をしてます。

同 門 そもそも「悪妻」説は江戸時代のものだが、確たる根拠はないんだよ。瀬名につては史料がほとんどないから、当然人柄なんて想像でしかない。この二人の作家は読者が多いだけに、「悪妻」説を採った影響力は大きいな。その分ちょっと罪作りかも。

見た蔵 そうか。今回の瀬名像はこのドラマのオリジナルだけど、こんなに清楚でいい人では「なかった」という証拠もないんだ。よかった! 今はそれで十分です(笑)。

同 門 さっき言った「大きな出来事」は、家康の人生観を揺るがすくらいインパクトのある事件だ。ドラマでは史実に沿いながらも、大胆な脚色で見応え十分。お楽しみに!

<どうする家康>の「現代性」がここに!

見た花 ワタシは家康の母・於大の方が好きだなあ。松嶋菜々子のカラッとした演技が観ていて気持ちいいですね〜。

同 門 於大の方もこれまでは戦国の「悲劇の女性」として描かれてきた。お家の都合で離縁されて息子の家康とは生き別れ。さらに別の武将と結婚させられて……。

見た花 でもこのドラマの於大の方にとって、離婚と再婚は現代の「離職・転職」みたい。主な「タスク」は男子出産と割り切っていて、軽々とその務めを果たしてる。

見た蔵 しかも息子の家康に掛け合って、再婚相手を昇進させてますよ(笑)。

同 門 家康と瀬名の間に三人目の子供ができないので、側室を置くように率先して動いたのが於大の方だね。

見た花 瀬名も巻き込んで選んだ女性が、女子をもうけたものの、実は彼女は……。

見た蔵 同性愛者だった、という驚きの展開。

同 門 大河ドラマでLGBTQというテーマに踏み込んだのはこれが最初だね。このドラマの「現代性」は、こういうところにも現れている。

この「探検隊」の最後に、家康の成功の秘密が「多様性」の尊重にあるという話をしようと思っているんだが、彼女を温かく扱ったのもそんな家康の性格に基づいているね。

「戦国の美学」に殉じた女城主

同 門 <どうする家康>が優れているのは、現代的なキャラやエピソードを盛り込むだけではなくて、古典的な「戦国武将の美学」もたっぷり描いていることなんだ。

見た花 「忠義心に殉じる」という、アレですね。オジサンが好きなテーマ(笑)。

同 門 そうだよ! オジサンで悪かったね!……(涙)。 

見た蔵 まあまあ(笑)。ここでは第11回の、引間城の女城主・田鶴の運命について話しましょうよ。

同 門 田鶴は今川家の重臣・鵜殿長照の妹。同じく重臣の関口家の娘の瀬名と親友だったという設定だ。

見た花 今川と対立関係になった家康は長照を討って、その息子二人を人質にした。彼らと交換で、瀬名と子供たちを今川から取り返したんですよね。

見た蔵  彼女は夫の死後、引間城の女城主として家臣を率いることになった。

同 門 その後家康は武田信玄と図って今川攻略に動く。その第一の標的が引間城。家康にとってはたやすいターゲットだ。落城は確実。

見た花 瀬名は親友を救おうと、降伏を勧める書状を盛んに送りますが、田鶴は一顧だにしない。むしろ戦闘への決意を固くするだけです。

見た蔵 なにせ田鶴にとって、家康は今川を裏切り、兄を亡き者にした仇だからな。

同 門 関水渚の武者姿は凛々しくてよかったね。それと対照的な嫁入り前の二人の幸せな時間が回想シーンで描かれることで、二人の悲しみがひとしお伝わってきたよ。

見た花 雪の中でも、ひとりぼっちでも、凛と咲く椿。そんな椿のように、世に流されず己を貫く女子になりたい、と田鶴は言います。これは今川への忠義心のことですね。そして彼女は家康軍の銃弾に倒れる……。さすがに泣けました。

同 門 見た花クン、キミは「オジサンの趣味」とかディスってたわりに、結構よく見てるじゃないか。感心感心。……では最後に、私から田鶴へ手向けの一句。

いくさ場に 一輪散りぬ 雪つばき 

見た蔵 センパイに俳句の趣味があったとは知りませんでした!

見た花 うまいのか下手なのか、よくわかりません(笑)。

同 門 見た蔵 見た花 さて今回はここまで。

次回は来年1月中旬にアップの予定です。お楽しみに!(構成:阿部ヒロユキ)

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■ライター
阿部ひろゆき
ライター。長年テレビ情報誌の編集に携わる。2023年は”ステラnet”(※)でレビュー記事『どうする家康』テレビ桟敷談義」を一年間連載。副業はブルースハーモニカ奏者(演奏経験豊富。しかしすべて無報酬……)。

(※)ステラnet  →(一財)NHK財団運営の、番組予告からイベントまで、さまざまなNHK情報を網羅・発信する「お役立ちサイト」https://steranet.jp/

 

         
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