<どうする家康>探検隊  #2 〜「いくさなき世」と男と女〜

<どうする家康>探検隊 #2 〜「いくさなき世」と男と女〜

ステラnetで人気のあのドラマレビューのメンバーがNHKグループモールにやってきました。4回に分けて大河ドラマ「どうする家康」の魅力を語ってくれます。

#2は「どうする家康」の第12回〜22回を振り返ってご紹介。

#1をまだご覧になっていない方はこちらから

■登場人物

  • 同門センパイ 大河ドラマ長年のファン
  • 大河見た蔵 最近大河ファンになった「大河初心者」
  • 大河見た花(みたか) 見た蔵の妹 「歴史大好き女子」

目次

家康の「心友」・今川氏真をめぐって

プライドとコンプレックスの板挟み

見た蔵 DVDボックス完全版第弐集(以下「第弐集」)では、今川家滅亡から設楽原の合戦までの7年間が描かれています。家康が27歳から34歳までの期間です。

同 門 今回も前回同様、家康の成長に欠かせなかった登場人物を中心に話そうか。

見た花 まずは今川氏真ですよね。第12回はズバリ「氏真」。良かったです!

見た蔵 ボクもガッツリ感動したなあ〜。DVDで何回見ても飽きませんね。

同 門 まずドラマの氏真像を押さえておこうか。彼は今川家嫡男のプライドと、能力が弟分の家康に劣るというコンプレックスの板挟みに苦しむ、実は哀れな人なんだ。

見た花 センパイ、言い方が冷たい(笑)。ワタシは、彼はどこか家康と似てるような気がするんですよ。特に己の能力不足に苦しむとき。不安に駆られると、家康はオタオタするだけだけど、氏真はすごく暴力的になる。似てないのはそこだけと感じます。

同 門 いいポイントだね。二人に共通するのは「心の揺れ」なんだ。だからその点で、この二人は「心友」だと思う。でもその話は後でじっくりやろう。

見た蔵 父親の義元も、彼の限界を見切っています。面と向かってズバリ、オマエには将としての才はない、と言い放つくらいだから。これを言われた嫡男はツラいな!

同 門 義元は、氏真が後継者になったら、優秀な家康を補佐役に立てなければ、今川家の将来はないと思っていたんだろうね。氏真が努力していることは評価していたけれど。

見た蔵 桶狭間で偉大な父を失った氏真は案の定、悪手を連発します。最大のミスは孤立した家康軍に援軍を送らなかったことですね。家康はやむを得ず織田方につき、家臣団も次々と離反。氏真はなすすべもなく、怒りと焦燥感に駆られるばかりです。

「いくさなき世」になってから活躍した氏真

見た蔵 織田と同盟を組んだ家康はどんどん力をつけて、今川を倒しにかかります。掛川城に立てこもった氏真を攻めるんですが、これに結構手間取るんですね。

見た花 家康には、氏真を兄と慕った少年時代が、かけがえのない思い出として残っています。だから氏真を「真の敵」と割り切れない。だから本気で攻められないんですよ。

同 門 とはいえ掛川城を4か月も守り抜いたのは、氏真の意地だな。自ら最前線に立って戦ったのは、父と家康に対する「本当のオレはこうだ!」というメッセージだと思う。

見た蔵 掛川落城の後、自刃を図る氏真を、家康が「兄と思っているから、死んでほしくないんじゃ!」と、泣きながら止めるシーンはよかったなあ。

松本潤と溝端淳平の、真っ向勝負の芝居がグッと来ますね〜。

同 門 その後の氏真の人生が面白いんだよ。戦国時代を生き延びて、紆余曲折の末、何と徳川の家臣となる。子孫は幕府の典礼を司る要職「高家」として重用されたそうだ。死んだのは徳川時代の1614年、76歳の長命だった。ドラマの終盤にも再登場するよ。

見た花 和歌の名手として、公家との交流も盛んだったそうですね。

同 門 平和になった世で活躍か。やっぱり根本では家康と同じ平和志向だったんだな。

「心が揺れるキャラ」が感動を呼ぶ? 

同 門 ところで、なぜこの回がそんなに感動的だったと思う?

見た花 それはなんと言っても溝端淳平の名演技でしょう。優しい兄貴分の表情から、鬼畜のような表情まで、氏真の内面を見事に表現してましたから。

同 門 うん。でもそれ以前に、このドラマでの氏真のキャラ設定が秀逸なんだよ。

感情がすぐ顔に出るのは、己の内面を自分でコントロールできない、平常心を失いやすいから。つまり彼の「心の揺れ」が大きいからだ。その点では家康も同じ。だから二人は似てるんだ。そもそもこのドラマ、家康の「どうする=心の揺れ」がテーマだろう?

見た蔵 「心の揺れ」って、「二面性」だったり、「迷い」ということですか?

同 門 そう。このドラマの家康は弱虫かと思うと急に勇敢になる。そんな揺れたり迷ったりの人でしょ(笑)。ドラマ作りでは、こうした「心の揺れ」や「迷い」という要素は、キャラの人間性を強調し、奥行きを与える仕掛けなんだよ。そういう視点に立つと、このドラマでは、家康と氏真以外、そんなキャラは少ないと思わない?

見た蔵 ああ、義元も信長も信玄も自信満々、まったく迷わないですね。

見た花 瀬名もそうね。家康の家臣団も大体そうかも。 

見た蔵 そういえば、迷う家康は、迷わないキャラに比べてすごく人間臭く感じます。

同 門 ではそんな主役のそばに、もう一人「心の揺れる」脇役を加えるとどうなるか。二人の「心の揺れ」が共振して、大きな感情の波が生まれる。そのシーンを上手い俳優が演じれば、大きな感動を見る側に与えることができるんだよ。

見た蔵 共振? なんだか中学校の理科の授業みたいだな(笑)。

見た花 でもなんとなくわかります。氏真と家康のシーンは「迷い」に苦しむ者同士、心が熱く通い合った感じがしました。そうか、それでワタシは泣いちゃったんだ!

同 門 対立していた「心友」同士の、腹を割った和解だからね。

見た蔵 なるほど。例えば信長と家康だと、迷わない信長に、迷う家康が衝突するだけで、感情の激しい動きには圧倒されるけど、涙が出るような感動とは違いますね。

同 門 だからDVDを観る人は、家康や氏真のような「心の揺れている」キャラを探してほしいんだ。第弐集にも何人か出て来るし、今後もっと大物の「心の揺れている」キャラも登場する。そこに注目すれば、ドラマをもっと楽しめること請け合いだよ。

「いくさなき世」への道を示した二人の女性

氏真を「更生」させた正室・糸

同 門 第弐集でも優れた女性たちがドラマを引っ張ったね。まずは氏真の正室・糸。

彼女のキャラ設定が興味深い。名家・北条の出なんだけど、足が少し不自由。それで「売れ残りだ」と今川の家臣たちは陰口を叩いている。そんなハンデのある女性だ。

見た蔵 それが氏真には不満だったんですね。ホントは瀬名と結婚したかったのに。

同 門 でも結局彼女のおかげで、氏真は生き延びることができたんだよ。

見た花 とにかくいくさはやめてほしい。その一念を夫に伝え続ける意志の強い人。

同 門 ハンデに負けず、強く生き抜いてきた糸だからこそ、氏真の頑なな心を動かし、癒すことができたんだね。彼女の「わたくしは蹴鞠をするあなたの方が好きでございます。勇ましく戦うあなたよりも」という言葉が氏真を救ったんだ。

見た蔵 それに続く、敗北を認めた氏真の「余は何一つ事を成せなかったが、妻ひとりを幸せにすることぐらいはできるやもしれぬ……」というセリフにはジーンと来ました! ボクも将来そんなことを言ってみたいです(笑)。

夫も口出しできない正室の権限とは? 

見た花 第19回の、家康とお万の生々しいシーンにはびっくりしました。

見た蔵 湯屋での2ショットは色っぽかった。大河ドラマでこれが「あり」なんて!

同 門 ホントにね(笑)。ここで一句。いくさなき 湯屋に男女の 混じる汗

見た蔵 いいですねえ、エロチックで(笑)

見た花 イヤだなあ! 男ふたりでニヤニヤして!

ところで、お万が家康の子をみごもったことで、瀬名がひどく怒ってましたね。しかもお万は子どもともども浜松城から追放。そこまでやるの? ひどくないですか。

同 門 正室としては当然の行動だよ。城の女性たちの業務統と人事の管理には、正室が権限を持っていた。側室選び、領主の子の認知、侍女や乳母の任免までね。現代の企業なら女子従業員担当の重役だ。しかもその判断には領主すら口出しできない決まりだった。

見た蔵 つまり侍女に手を出すなら、あらかじめ正室の許可を取りなさい、ということですか? しかし浮気するときに、前もって妻に相談しますかね?(笑)。

同 門 どうかなあ(笑)。まあ、正室のあずかり知らぬところで、子供がどんどん産まれたら、跡目争いの原因になりかねない。そういうリスク管理も正室の仕事なんだ。

お万の子は男子で、徳川家の重臣に育てられた。後に家康の次男として認知されて、豊臣秀吉、次いで結城氏の養子となって、結城秀康と名乗る。たいへん優れた武将だったんだよ。後の関ヶ原の合戦でも徳川の勝利に大きく貢献したんだ。

家康の子を産んだお万の真意とは?

見た花 ところでワタシは、お万は意図的に家康に近づいたと踏んでいるんです。ご指名でもないのに、「髪をおすきしましょうか?」とやって来て、妙に積極的ですよ。

同 門 見た蔵 いやいや(笑)、それはキミの思い過ごしでしょ!

見た花 いいえ。DVDを見返してください。彼女は紙の小さな人形を持ち歩いていました。これ、家康ですよ。さらに妊娠した後は、これに子供が加わってます。

同 門 なるほど。彼女は実家の神社を焼かれて両親も失った、いくさの犠牲者。「泰平の世」の理想を掲げる家康の遺伝子を得て、将来に繋げようとした、という見立てだね。

見た蔵 男に政治を任せているから、いくさが絶えない、とも言ってました。

同 門「まつりごともおなごがやればいいのです」か。そうすればいくさは起こらない。

見た花 そして「お方さま(瀬名)のような方ならできます!」。

同 門 ちょっと唐突な振りだった(笑)。でもこのひと言が瀬名の背中を押すことになり、やがて大きな悲劇の原因になる。でもそれは次の第参集のお楽しみだ。

信長・信玄は偉大な「反面教師」!?

「近代戦」の先駆け・設楽原の合戦

見た蔵 第弐集の後半で、「戦国大河」の大きな見どころがやってきます。

同 門 武田軍に大敗した三方ヶ原の合戦は、徳川が存亡の危機に追い込まれた重要ないくさなんだが、ここではスペースの都合で残念ながらパス。すみません。

見た花 その翌年の信玄の死で、徳川はほっとひと息。家康の運の強さを感じます。

でも呑気にお万に手を付けているときに(笑)、信玄の嫡男・勝頼は力を蓄えている。

見た蔵 そして捲土重来を期して天下取りに挑んでくるんですね。戦国史上最大のハイライト「設楽原の合戦」。織田・徳川連合軍が武田軍を完膚なきまでに打ちのめした。ドラマの映像も迫力満点、見応え十分です!

見た花 ところでこの合戦は、「近代戦の先駆け」だと聞きましたが……

同 門 その通り。ここでちょっと「近代戦」の話をしようか。信長の戦略は、現代の戦争にも受け継がれている「近代戦」だ。その特徴は、ざっくり言って以下の三つ。

1、最新テクノロジーの活用。このいくさでは当時の最新兵器・鉄砲だ。

見た花 当時の火縄銃は、次の一発を撃つまでに時間がかかって連射ができなかった。信長がこの弱点を克服するために、鉄砲隊を三列に置いて連射を可能にしたのは有名です。

同 門 次に、2、経済性の重視。これは兵士養成と武器調達の点で顕著だね。

刀や槍を実戦で使えるようになるまでは、時間をかけた修練が必要だ。しかし鉄砲ならもっと少ない時間で習得できる。射撃の名手でなくても、数撃ちゃ当たる武器だ。粗製濫造でいいから、とにかくより多くの鉄砲隊を効率的に調達できればいいんだ。

見た花 ははあ、今の言葉でいえば、戦争の「ヒューマンリソース」養成の「タイムコスト」を大幅に下げられたいうことですね。

同 門 鉄砲は3000挺用意したそうだね。破格の経費がかかったろうが、信長の読みでは、この合戦での「費用対効果」は十分期待できたんだ。

今も続く「近代戦」の暗黒面、「人間性の否定、あるいは軽視」 

同 門 そして最後に……、3、「人間性の否定、あるいは軽視」。

見た蔵 家康と信康は、敵兵の死屍累々の戦場を見て、呆然自失でした。

同 門 快哉を叫ぶよりも、むしろ嫌悪感を覚えていたんじゃないかな。

見た花 ええ。信康は「これは、なぶり殺しじゃ」と漏らしていましたね。

同 門 すなわち「殺戮=人間性の否定、あるいは軽視」。悲しいかな、これが「近代戦」の第三の特徴だ。

見た花 戦国武将同士の一騎打ちには、「美学」があるといいますよね。

同 門 一騎打ちがなぜ美しいか。それは「人間同士」のぶつかり合いだから。勝つために戦うけれど、鍛錬を重ねた同士。向かい合ったとたん、両者の心に生まれるのは相手へのリスペクトだろう。オリンピックのアスリートたちを思い出すね。

見た花 先陣を務めて、鉄砲で惨殺された武田の重臣・山県昌景が、どんなに勇猛で優れた武将だったか。そんな相手との一騎打ちだったら、敵方の武将は負けても悔いはないし、彼と戦ったこと自体が「誉れ」だったでしょうに。

見た蔵 この合戦にはそんな要素は全くないなあ。さすがに信長もちょっとマズいと思ったのか、フォローしてた(笑)。「最強の兵どもの最期を謹んで見届けよ」って。

同 門 現在世界各地で進行中の戦争では、ミサイルやドローンの攻撃が目立つ。相手国の兵士、国民、その国の暮らしや文化への敬意や配慮はカケラもない。

見た花 信長の戦略には、現代にもつながる大きなマイナス要素があったわけですね。

信玄や信長を「反面教師」に……家康の新たな出発点

見た花 これらの合戦が、家康の新たな出発点だというのがセンパイの持論ですよね。

同 門 うん。信玄も信長も「太平の世を作る」を旗印にしている。それは家康も同じだ。しかし家康は、三方ヶ原では信玄の真似は無理だと悟り、設楽原では「信長みたいな残酷なやり方はイヤだ!」と痛感したんだ。

見た花 「いくさなき世」は作りたい。けれども信玄の強大な武力でもなく、信長の残酷な合理主義でもない、第三の方法はないものか、と考えるようになったんですね。

見た蔵 つまり家康は彼らを「反面教師」にして、新たな道を模索し始めた……。

同 門 しかし、では具体的にどうすればいいのか、家康はまだ思いつかない。

ヒントになるのは第参集に出てくる瀬名のアイデアなんだが、それは先のお楽しみ。

「人の一生は重荷を負うて遠き道をゆくが如し」と言う家康の後半生は、「いくさなき世」を求める長い道のりとなる。その出発点はこれらの合戦の教訓にあるんだよ。

見た蔵 とりあえずは信長と武力で張り合うのはやめて、織田家の臣下となります。それが再スタートの第一歩となった。家康本人は不本意っぽいけど。

同 門 いやいや、「これから何をするにも、徳川家存続が第一。ここはとりあえず頭でも下げておくか」が本音だと思うよ。悪名高い家康の「タヌキ化」の第一歩だ(笑)。

同 門 見た蔵 見た花 さて今回はここまで。お読みいただきありがとうございます!次回は1月下旬アップの予定です。お楽しみに!(構成 阿部ヒロユキ)

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◾️ライター
阿部ひろゆき
ライター。長年テレビ情報誌の編集に携わる。2023年は”ステラnet”(※)でレビュー記事『どうする家康』テレビ桟敷談義」を一年間連載。副業はブルースハーモニカ奏者(演奏経験豊富。しかしすべて無報酬……)。

(※)ステラnet  →(一財)NHK財団運営の、番組予告からイベントまで、さまざまなNHK情報を網羅・発信する「お役立ちサイト」https://steranet.jp/

         
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