いまこそ聴くべし!昭和のポップ/ロックバンド【THE BLUE HEARTS(ザ・ブルーハーツ)】

いまこそ聴くべし!昭和のポップ/ロックバンド【THE BLUE HEARTS(ザ・ブルーハーツ)】

 音楽評論家・スージー鈴木による連載「いまこそ聴くべし!昭和のポップ/ロックバンド」。THE BLUE HEARTS(ザ・ブルーハーツ)について、主に音楽的視点から、その魅力に迫ります。 

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◆目次

 「今の時代にはブルーハーツが足りない」
「バンドブーム」を牽引したブルーハーツ…彼らの魅力の本質とは
『パンク・ロック』『ロクデナシ』『夢』『青空』…印象的な歌詞をご紹介!

◆ライタープロフィール
◆おすすめ商品

 

「今の時代にはブルーハーツが足りない」

さて、いきなり私事ですが、さる311日にNHK Eテレで放送された、新しい形の音楽教養番組『シン・にっぽん聴こう!』に出演しました。メインMCは森山直太朗さんと高山一実さん。

テーマは「バンドブーム、そしてブルーハーツ」というものだったのですが、ありがたいことに視聴者の皆さんから好評だったようで、熱い感想も多数いただきました。

その多くは私(56歳)に近い世代の方からの「懐かしい」「大好きだった」「青春だった」というものでしたが、特にブルーハーツに関してのコメントには、単なる懐古主義を超えて、もっと奥深いものが潜んでいるように思えたのです。

一言で言えば――「今の時代にはブルーハーツが足りない」

 

「バンドブーム」を牽引したブルーハーツ…彼らの魅力の本質とは

1987年にメジャーデビュー。89年~90年に盛り上がった「バンドブーム」を牽引しながら、95年に突如解散した4人組バンド、ブルーハーツ(つまり連載タイトル「昭和の~」に反して、平成初期まで活動していました)。

番組の中でも話したのですが、彼らの魅力の本質を私は歌詞だと考えます。ボーカルの甲本ヒロトとギタリストの真島昌利という、現在でもザ・クロマニヨンズで活躍中の黄金コンビですが、この2人の優れた「詩人」を擁していたこと。これがブルーハーツの最大の魅力だったと思うのです。

「詩人」と書きましたが、もちろん「詞」は「詩」ではありません。ただ驚くべきことに、彼らが紡ぎ出した「詞」は、メロディやリズム抜きの「詩」としても、十分鑑賞に耐えうるものなのです。その証拠として、歌詞だけを連ねた本が、何冊も刊行されているのですから。

 

比較的知られているのは、まずは『リンダリンダ』(87年)の「♪ドブネズミみたいに美しくなりたい」ではないでしょうか。もしくは『TRAIN-TRAIN』(88年)の「♪見えない自由がほしくて 見えない銃を撃ちまくる」あたり。

この2つだけを見ても、「ドブネズミ」や「銃を撃ちまくる」のような直接的な表現を用いているにもかかわらず、ある種、文学的な格調のようなものを感じさせる、「ブルーハーツ語」の魅力が、十分に伝わってくるのですが。


『パンク・ロック』『ロクデナシ』『夢』『青空』…印象的な歌詞をご紹介!

さてここからは、これら2曲に比べては知られていないものの、私が個人的に偏愛する歌詞をご紹介します。読んで味わっていただき、あまり詳しくない方でも、彼らの魅力を知るキッカケになればと思います。

 

まずはファーストアルバム『THE BLUE HEARTS』(87年)に収録された『パンク・ロック』のサビ「♪僕 パンク・ロックが好きだ」。

「パンク・ロック」というと、当時は(今でも?)危っかしいイメージがあって、正直、素直に「好き」というのに躊躇(ちゅうちょ)しそうな対象です。しかし作者の甲本ヒロトは、まるで童謡のように単純なコードとメロディに乗せて、「♪僕 パンク・ロックが好きだ」と朴訥(ぼくとつ)に歌い切りました。

このように、彼らの歌詞の魅力のひとつとして「純粋性」が挙げられます。嘘のない感じ。心の中をむき出して歌っている感じ。そんな歌詞世界の魅力は、忌野清志郎の後継のように、私には見えるのです。

 

セカンドアルバム『YOUNG AND PRETTY』には、その名も『ロクデナシ』という曲があります(作詞:真島昌利、以降も)。主人公は、それこそ「ロクデナシ」のように扱われ、煙たがられているのですが、その彼が曲の中盤で、すべての若者と共有したくなるフレーズを叫ぶ。

――「♪生まれたからには生きてやる」

生きる意味・生きる価値が問い直され続ける時代ですが、理由より何より「生まれたから」「生きる」と宣言するのです。何と神々しい言葉でしょう。

 

キャリア後期の歌詞では、よくCMソングなどで使われる『夢』(92年)という曲が印象的です。歌い出しは「♪あれも欲しい これも欲しい もっと欲しい もっともっと欲しい」。

一見、単なる強欲な物質主義者の言葉に見えるかもですが、私はこのフレーズを見て、高名な詩人である茨木のり子による「もっと強く願っていいのだ わたしたちは明石の鯛がたべたいと」 (『もっと強く』)というフレーズを思い出すのです。

つまりは「もっと人間的に、もっと人間臭くていいのだ」という考え方。そんな、一種のヒューマニズムのような視点も、彼らの歌詞の魅力の一翼を形成します。

 

ですが、1曲選ぶとすれば、やはり、番組の中で森山直太朗さんが歌った『青空』となるでしょう。サビの歌詞は、今の日本の音楽に、いや世界に、もっとも足りないものを突きつけます。

――「♪生まれた所や皮膚や目の色で いったいこの僕の何がわかるというのだろう」


再度繰り返します――「今の時代にはブルーハーツが足りない」。

 「今の時代には忌野清志郎が足りない」と思うのと同様に「ブルーハーツも足りない」。その足りない何かを探しながら、今あらためて彼らの歌詞に耳を澄ませるのも有意義なことでしょう。いや、今だからこそ、いよいよ有意義だと思うのです。


◆ライタープロフィール

 スージー鈴木(すーじー・すずき)

音楽評論家、小説家、ラジオDJ。1966年11月26日、大阪府東大阪市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。音楽評論家として、昭和歌謡から最新ヒット曲までを「プロ・リスナー」的に評論。bayfm『9の音粋』月曜日担当DJ。著書に『桑田佳祐論』『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』『1979年の歌謡曲』(いずれも彩流社)、『恋するラジオ』『チェッカーズの音楽とその時代』(いずれもブックマン社)など多数。


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