ポーランドの若き芸術家たちの絵画など、約130点を公開
「〈若きポーランド〉-色彩と魂の詩(うた) 1890-1918」が、2025年3月25日(火)から6月29日(日)まで京都国立近代美術館にて開催されます。

1795年、ロシア・プロイセン・オーストリアによる分割以降、123年の間独立を失ったポーランド。国を失った人々が自らのアイデンティティの拠り所としたのが、芸術そして文化でした。その中心地として重要な役割を果たしたのが、古都クラクフです。
19世紀後半、ポーランドの歴史や文化的逸話を大きなスケールで描き名声を博したのがヤン・マテイコです。クラクフ美術学校校長を務めた彼のもとからは、数多くの若き芸術家たちが巣立ちます。彼らは、祖国の独立を願いつつ、そこに自らの心情を結びつけ、象徴性に富み色彩豊かな独自の芸術を広い分野で展開しました。〈若きポーランド〉と呼ばれた彼らは、同時代の西欧の美術や浮世絵などの日本美術を貪欲に吸収しつつ、地方に残る伝統文化を発見・再解釈しながら、ポーランドの「国民芸術」の在るべき姿を模索しました。本展では、マテイコを前史とし、〈若きポーランド〉が生み出した芸術を包括的に、日本で初めて紹介します。

ヤン・マテイコ《1683年、ウィーンでの対トルコ軍勝利伝達の教皇宛書簡を使者デンホフに手渡すヤン3世ソビェスキ》
1880年 油彩/カンヴァス クラクフ国立博物館蔵
本展はクラクフ国立博物館の全面的な協力のもと、クラクフ国立博物館を筆頭に、ワルシャワを含む複数の国立博物館や多くの個人所蔵家から招来した、マテイコそして〈若きポーランド〉の数多くの絵画ならびに版画、家具やテキスタイルなどの工芸品を含む約130点によって、前世紀転換期に花開いたポーランド美術の真髄をご覧いただきます。
◆みどころ
1.ポーランドの美術とは?
本展はその疑問に答えます。建国以来頻繁に国境線が変わり、14世紀には欧州最大の規模を誇ったにもかかわらず、ついには国家消滅を経験したポーランド。その歴史、自然、心を描いたマテイコそして〈若きポーランド〉の作品群が集結します。
2.ポーランドと日本、知られざる深いかかわり
クラクフ国立博物館には、フェリクス・ヤシェンスキが寄贈した世界有数の日本美術コレクションがあります。本展では、〈若きポーランド〉の芸術家たちに広く影響を与えた日本美術との関係にも注目します。
3.出品作の約9割が日本初公開
本展は、ポーランドの芸術のみならず、ポーランドの芸術家たちに焦点をあてる日本で初めての展覧会です。出品される作品のほとんどが日本初公開となります。ポーランド側の全面的な協力によって可能となりました。
◆作品紹介
Ⅰ.描かれたポーランド―マテイコとマルチェフスキ
前世紀転換期は、ポーランド文化において芸術的活動が極めて活発になった時代でした。18世紀末に地図から姿を消した祖国ポーランドの自由や独立について公に語ることが出来なかった時代に、暗喩的ないし象徴的にそれを代弁する芸術は特別な役割を担っていました。19世紀後半に活躍し、ポーランド美術史上最も著名な画家であるヤン・マテイコ(1838-1893)は、ポーランドの歴史的事象を英雄的に記念碑的スケールで描き出し、人々の祖国への想いを鼓舞しました。一方、マテイコの次世代にあたるヤツェク・マルチェフスキ(1854-1929)は、同じ歴史的事象をむしろ自身や同世代の人々の心情とリンクさせることで、過去の物語に現代の息吹を与え、〈若きポーランド〉を代表する画家となりました。

ヤン・マテイコ《1683年、ウィーンでの対トルコ軍勝利伝達の教皇宛書簡を使者デンホフに手渡すヤン3世ソビェスキ》
1880年 油彩/カンヴァス クラクフ国立博物館蔵

ヤツェク・マルチェフスキ《画家の霊感》
1897年 油彩/カンヴァス クラクフ国立博物館蔵
Ⅱ.自然と芸術―魂の情景
〈若きポーランド〉の自然表現には、象徴主義的傾向が顕著に認められます。自然は常に、人間の精神状態と深く結び付き、その気分によって解釈され描写されました。一見写実的な風景描写は、霧がかかった薄暗い秋の風景やメランコリックな冬景色のような当時好まれたモティーフの選択に、画家自身の気分を織り込むことで、彼らの「魂の情景」を写すものとなっています。水や空のように自然の力が主題となる場合も、それに相応しい気分や象徴の連想と結び付いて、儚さや永遠性、愛といった普遍的イメージを想起させるさまは、まさに音楽的ともいえます。そして、自然の伝統的写実的表現とは異なるこのような表現を可能にした背景には、当時の彼らに大きな影響を与えた日本の浮世絵の存在がありました。

ユリアン・ファワト《冬景色》
1915年 油彩/カンヴァス クラクフ国立博物館蔵

スタニスワフ・ヴィスピャンスキ《夜明けのプランティ公園》
1894年 油彩/カンヴァス 個人蔵(クラクフ国立博物館寄託)

ヴォイチェフ・ヴァイス《ケシの花》
1902年 油彩/カンヴァス 個人蔵(クラクフ国立博物館寄託)
Ⅲ.日本との架け橋:フェリクス・"マンガ"・ヤシェンスキ
クラクフと〈若きポーランド〉を考える際、忘れてはならないのがフェリクス・ヤシェンスキ(1861-1926)の存在です。作家で美術批評家でもあった彼は、東アジア美術とりわけ日本の美術工芸品コレクターとして知られています。同時に彼は、〈若きポーランド〉の芸術家たちと親密に交流し、作品購入などを通して常に彼らの活動を支援しました。北斎に心酔し、自ら「マンガ」と名乗るほどに、浮世絵を主とした日本美術を愛した彼のコレクションは、〈若きポーランド〉の人々が直接触れられただけではなく、早い時期から一般にも公開され、1920年にはクラクフ国立博物館に寄贈されました。ここでは、〈若きポーランド〉の作家たちが描いたヤシェンスキの肖像画を通して、彼らの交流の一端をご覧いただきます。

ヤツェク・マルチェフスキ《フェリクス・ヤシェンスキの肖像》
1903年 油彩/板 クラクフ国立博物館蔵

「日本の屏風の前で三味線を持つフェリクス・ヤシェンスキ」
1903-05年頃 写真 クラクフ国立博物館蔵
Ⅳ.インスピレーション源としての日本
〈若きポーランド〉の作品に特徴的な象徴的表現の背景には、当時のポーランドの芸術家たちによる日本美術の受容があります。彼らは、西欧各国に拡がったジャポニスムから知識を得るだけでなく、ウィーンやミュンヘン、パリなどでの展覧会や画廊で作品を実見し、なによりヤシェンスキと彼のコレクションを通して日本美術に対する理解を深めました。着物のような日本の文物を引用した作品や、極端な俯瞰やクローズアップなど浮世絵に特徴的な構図を参照した作品など、霊感源としての日本の顕れ方は様々ですが、いずれにも、独自の芸術を模索する彼らと日本という未知の文化との真摯な対話が感じられます。とりわけ、先駆的女性画家のオルガ・ボズナンスカ(1865-1940)の作品には、日本との直接的ないし間接的対話の多様性が顕著にみとめられます。

レオン・ヴィチュウコフスキ《日本女性》
1897年 油彩/カンヴァス クラクフ国立博物館蔵

オルガ・ボズナンスカ《菊を抱く少女》
1894年 油彩/厚紙 クラクフ国立博物館蔵

ヴワディスワフ・シレヴィンスキ《髪を梳く女》
1897年 油彩/カンヴァス クラクフ国立博物館蔵
Ⅴ.フォークロア―国民様式の色彩豊かな故郷
ポーランド独自の芸術を模索する中で、人々を魅了したのが、郊外の農村や地方の素朴かつ荘厳な風景そして色彩豊かな文化習俗でした。クラクフ近郊のブロノヴィツェ村には、ヴウォジミェシュ・テトマイェル(1861-1923)が移り住み、外光派の画家たちも頻繁に訪れて、自然のリズムと共に生きる人々とその生活を描いています。〈若きポーランド〉の人々は応用芸術の刷新にも熱意を傾け、地方の伝統的な様式や文様を取り入れた新たなデザインの家具やテキスタイルなどを制作しました。スロヴァキアとの国境にあるタトリ山脈麓のザコパネに特徴的な木造建築形式や、遙か東方に位置し現在はその大部分がウクライナに属するフツル地域の異国情緒を感じさせる祭礼儀式やその衣裳も、重要な霊感源となり数多くの作品が生まれました。

ヴウォジミェシュ・テトマイェル《芸術家の家族》
1905年 油彩/カンヴァス クラクフ国立博物館蔵

スタニスワフ・ヴィスピャンスキ[デザイン] アンジェイ・シドル[製作]《椅子》
1904-05年 クルミ材 クラクフ国立博物館蔵

スタニスワフ・ヴィトキェーヴィチ《冬の巣(タトリ山脈の眺め)》
1907年 油彩/カンヴァス クラクフ国立博物館蔵

テオドル・アクセントーヴィチ《ヨルダンの祝祭》
1895年 油彩/カンヴァス ワルシャワ国立博物館蔵
Ⅵ.近代に向かって―新たなポーランドの誕生
1905年の「血の日曜日事件」を発端としたロシア第一革命は、ポーランドの人々に衝撃を与えると同時に、彼らの眼を社会問題に向けさせ、独立回復へ向けた機運を高めることになりました。そして1918年、第一次世界大戦の終結をもって、ポーランドは念願の独立を果たします。その昂揚しつつも不確実な気分は、本章のマルチェフスキやゾフィア・ストリイェンスカ(1891-1976)の作品にも明らかです。しかしそれは同時に、マテイコや〈若きポーランド〉の芸術家たちに共通していた、失われた祖国のアイデンティティの表現という芸術の使命が終焉したことを意味しています。
本展の最初と最後の章の冒頭では、ポーランド史の著名な宮廷道化師スタンチクを描いた作品を紹介します。過去と未来を想って憂うその姿は、困難な状況であっても、現在と真摯に向き合うよう我々に訴えかけるかのようです。

ヤツェク・マルチェフスキ《ピューティアー》
1917年 油彩/カンヴァス クラクフ国立博物館蔵
◆音声ガイド
音声ガイドは、声優の岡本信彦さん
数々の人気アニメ、吹替で活躍する声優の岡本信彦さんのナビゲートで、〈若きポーランド〉の芸術家たちが残した数々の作品と文化の動き、その奥深い歴史をわかりやすくご紹介します。
岡本信彦|声優/アーティスト 1986年10月24日生まれ、東京都出身。2009年第3回声優アワードにて新人男優賞、続いて第5回声優アワードにて助演男優賞を受賞。代表作に「青の祓魔師」(奥村燐役)、「僕のヒーローアカデミア」(爆豪勝己役)、「葬送のフリーレン」(ヒンメル役)など。声優業だけでなく、ラジオパーソナリティとしても活躍中。 |
◆展覧会概要
- 展覧会名:〈若きポーランド〉—色彩と魂の詩(うた) 1890-1918
- 会場:京都国立近代美術館
- 会期:2025年3月25日(火)-6月29日(日)
- 開館時間:10:00~18:00(金曜日は20:00まで)
※入館は閉館の30分前まで - 休館日:月曜日(ただし5月5日は開館)
- 主催:京都国立近代美術館、クラクフ国立博物館、NHK京都放送局、NHKエンタープライズ近畿、京都新聞
- 名誉後援:ポーランド共和国文化・国家遺産大臣
- 後援:ポーランド共和国外務省、日本外務省
- 協力:ポーランド広報文化センター
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制作協力:NHKプロモーション
※本展は、ポーランド共和国文化・国家遺産省の助成を受けて実施します。
※本展は、EXPO2025大阪・関西万博ポーランドパビリオン関連イベントの一環として開催します。
▼「〈若きポーランド〉—色彩と魂の詩(うた) 1890-1918」展覧会公式サイト
https://youngpoland2025.jp/
◆チケット
観覧料(税込)
前売・団体券 | 当日券 | |
一般 | 1,800円 | 2,000円 |
大学生 | 900円 | 1,100円 |
高校生 | 400円 | 600円 |
※前売券は2025年1月23日(木)から3月24日(月)までの限定販売です。
※団体料金は20名以上。
※中学生以下、心身障がい者および付添者1名、ひとり親家庭の世帯員は無料(入館時に証明できるものをご提示ください)
※本料金でコレクション展もご覧いただけます。
販売場所 :美術館公式チケットサイト(e-tix)、チケットぴあ、ローソンチケット、セブンチケット販売ほか
音声ガイド付き前売券やグッズ付きチケットも販売しています。詳しくは展覧会公式サイトをご覧ください。
>>「〈若きポーランド〉—色彩と魂の詩(うた) 1890-1918」展覧会公式サイトチケット情報